今回は、シリコンバレーの職場環境を紹介する。筆者が以前に勤務していた中西部の3M社は、世界屈指の優良会社で、従業員数が数万人のニューヨーク株式市場に上場している多国籍大企業である。一方、転職先のシリコンバレーのPDF Solutions社は、15年前に転職した当時はIPO(株式公開)以前の30名程度の小企業だった。
 巨大企業での職場環境と雇用条件しか知らなかった筆者にとって、30名の企業の職場環境や雇用条件を考えると、不安は尽きなかった。しかし、面接に行き、ファウンダー(創業者)や技術者と話し、職場の環境を実際に見て、人事担当者から雇用条件の説明を受けると、それまで持っていた中小企業に対するイメージが一変したのを覚えている。巨大企業から小企業まで複数受けた仕事のオファーのなかで、最も小さい規模の企業へ転職することになった。さて、どんな職場環境が待っていたのだろう?

ビザのサポートは重要

 シリコンバレーの先端技術系企業の技術者の給与が高いことはよく知られている。下図は、プロフェッショナル職の年収をしめしている。技術職、ビジネスディベロップメント職は、プロフェッショナル職に分類される。

プロフェッショナル職の年収中央値。
米BW Research Partnership社, 米 Bereau of Labor StatisticsのQuaterly Census of Employment and Wages, 米California州Employment Development Department のJobsEQ EMSI, 米Joint Venture Silicon Valleyの2016 Silicon Valley Indexのデータを基に筆者が作図。
プロフェッショナル職の年収中央値。

 一般に年俸制であり、日本的な意味での年2回の定期賞与はない。退職金制度は、一部の巨大企業を除いて、ほとんどの企業にはない。一方で、日本では福利厚生と呼ばれるサービス(以下、Benefitと呼ぶ)は多くの企業が提供しており、シリコンバレーの先端技術系企業は企業の大小を問わず、米国の平均的な水準より充実した内容である。日本企業のような、通勤手当や住宅手当はまったくない。組合もない。残業手当もない。仕事時間は、自分で決める。有給休暇は、日本の大企業なみにある。出世競争や、ゴマすり等の魑魅魍魎(ちみもうりょう)は世間並みにある。

 Benefitの基本は一般医療と歯科医療の両方の保険、生命保険、ビザのサポートである。全米はもとより、全世界より、広く人材を求めるため、たとえ小企業でもBenefitの手抜きはできない。特に、ビザのサポートに関しては、外国人サラリーマンの多いシリコンバレーでは、大変重要である(現大統領の移民政策については、皆が神経を尖らせている)。必要な人材が適切なビザを短期間に取得するための体制がどの企業でも取られている。

 また、ストックオプションや401kプログラムという、個人の経済基盤を築くためのBenefitも提供される。退職金制度がなく、しかもシリコンバレーという非常に生活費がかかる場所でも、安心して生活し、家庭を築いていけるだけの経済的基盤を提供できない限り、優秀な人材は集まらない。