前回、紹介したように、シリコンバレーの新興技術企業は、投資家より新技術の急速な事業化を期待される。その期待に応えるべく、ビジネスディベロップメントの担当者がいて、日夜、新市場の創出とそこで得る商品の開発に頭を悩ましている。もちろん、この担当者以外にも従業員はいる。例えば、実際に商品を開発する技術者集団である。シリコンバレーの新興技術企業の人員構成はどうなっているのか。

技術者の1/3が博士号取得者

 一般に、シリコンバレーの新興技術企業では技術者の占める割合が非常に高い。筆者が勤務するPDF Solutions社の例を紹介する。PDF Solutions社には、現在約450名が勤務している。従業員の出身国は14か国以上にわたる。90%以上の従業員が、技術系のバックグラウンドで、技術者は全員が修士以上の学歴を持つ。技術者の約3分の1がPh.D.(工学博士)である。ただし、このような人員構成は、米国ではそれほど珍しくはない。

 実際、筆者が以前に務めていたミネソタ州の米3M社でも、新技術を基にした開発グループの人員構成は、このPDF Solutions社とほぼ同じだった。当時、筆者と交流があった、米IBM社や米Hewlett Packard社でも、新技術を基にした開発グループの人員構成は似たようなものだった。グループの全人員数は、企業の事業規模や将来期待されるマーケットの規模により異なってくるが、先端技術の分野で事業化を目指す技術者集団は、ほとんど全員が修士以上、そのうち3分の1以上がPh.D.ということは、共通している点と筆者は考える。

 少し横道にそれるが、男女比率についても紹介する。技術者集団の男女構成は、男性が多数派で8割近くを占めている。電子電気系の職業では、学位を取る時点で、男女割合が7:3程度になっていることがその一因である。化学系の米3M社(筆者が以前に勤務していた企業)では、女性技術者の割合はもっと高かった。なお法務や経理関係は、女性が圧倒的に多数派である。技術者集団の中で女性よりもさらに少数派は、ホモセクシュアルの人たちであろう。当然ながら、組織運営面で、人種、性別、年齢による差をつけることは許されない。実際、1人の専門技術家として、どれだけのアウトプットを出していくかが、単純に問われる。

 話をPh.D.に戻そう。シリコンバレーの新興技術企業の技術者集団は、新技術を使って新製品を開発する。新技術回りでの活躍が期待されているのが、Ph.D.である。投資家より与えられる時間は限られたものであり、新技術での急成長の期待がPh.D.に寄せられる。このため、Ph.D.の人たちは報酬も高いが、仕事をこなす能力も尋常でない人が多い。技術者集団の中で一目置かれる存在となっている。

 Ph.D.は学生時代に飛び級を経験している人が多い。秀才のPh.D.たちにも、それなりの苦労がある。当たり前だが、飛び級すると、自分より年上の人たちと同じ学年になる。学力の上ではまったく歯牙にはかけないものの、体力的な面や精神的な面でのギャップのせいか、はたまたイジメにあうせいか、総じて心の陰影を感じさせる人が多い。学生時代は、実際の年齢より年長にみせるため、着るものを工夫したり、男はひげを生やしてみたり、やりもしないパイプを持ってみたりと、それなりに苦労していたようである。