「日経エレクトロニクス」2015年10月号の無線モジュールの要、アンテナ設計の基礎「[最終回]アンテナの測定技術と、進化のトレンドを学ぶ」を分割して再公開した記事の後編です。前編はこちら

前回は、設計したアンテナが設計通りに動作しているかを確認するために、身に付けておくべきアンテナの測定技術について説明した。今回は、高度化するアンテナシステムの技術動向について解説する。(本誌)

 アンテナが電子回路と融合し、さらにデジタル信号処理と組み合わされることにより、著しく性能が向上したマルチアンテナの技術について解説する。マイクロセルやピコセル、空間分割多元接続(SDMA:Space Division Multiple Access)、アドバンスト・アンテナ・システム(AAS)、MIMO(Multiple Input Multiple Output)について紹介する2)

マイクロセル、ピコセル

 以前の携帯電話の基地局は、長距離にわたって電波を飛ばす1本の無指向性のアンテナを立てて、携帯端末がどこからでもアクセスできるようにしていた。これをオムニセル方式といい、サービスエリアが非常に広かった。ところが、基地局にアクセスする携帯端末の台数には限りがあるため、台数が増えてきたことで、基地局にアクセスできない携帯端末が出てきてしまった。

 そこで、サービスエリアを狭め、基地局の数を増やし、許容できる携帯端末の台数を増やしたマイクロセルやピコセルへの移行が進んだ(図5(a))。複数の基地局間同士は光ファイバーや無線でつながれている。例えば1つの基地局に10台の携帯端末しかアクセスできない場合でも、基地局を7局に増やすと、全体で70台の携帯端末がアクセス可能になる。このように、基地局を増やすことで携帯端末の増加に対応した。

図5 アンテナシステムの進化
図5 アンテナシステムの進化
携帯電話の普及に伴ってオムニセルからマイクロセルやピコセルに移行し、さらに指向性アンテナを用いたセクター分割方式が利用され、多くの携帯端末が利用できるようになった。
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空間分割多元接続の登場

 それでも、さらに携帯端末の台数が増えて、基地局にアクセスできない端末が出てきた。そこで今度は、1つの基地局に複数の指向性アンテナを立て、方向ごとに個別のアンテナで対応した。いわゆるマルチアンテナにより空間をセクターに分割する方法を取り入れた。全周囲360度を1つの無指向性アンテナでカバーするのではなく、空間を幾つかのセクターに分割し、指向性を持ったアンテナで各セクターをカバーする。図5(b)は、6セクターに分割した例である。60度のビーム幅を持つアンテナを6つ用いている。