「日経エレクトロニクス」2015年5月号の無線モジュールの要、アンテナ設計の基礎「[第2回]アンテナ設計は怖くない、電波が伝わる仕組みと用語を理解」を分割して再公開した記事の中編です。前編はこちら

前回は、アンテナ設計の意味を簡単に述べた後、アンテナから電波が空間に放射されるメカニズムについて説明した。今回と次回はアンテナでよく使われる専門用語について解説する。

 今回と次回は、アンテナ設計を学ぶ上で理解しておく必要がある用語について解説する。今回は、(a)デシベル、(b)インピーダンス、(c)スミスチャートーーの順にそれぞれ説明する。

(a)デシベル

 デシベル(dB)はもともと、電力の比率として定義された。電子回路や無線の世界では、微弱な電力から大電力まで扱うので、比率を表すダイナミックレンジが広い。例えば、携帯電話機の受信機は、アンテナから入って来た電力を、電子回路で10,000,000,000倍(100億倍)くらいに増幅する。設計資料に書く電力の比率が、これほど桁数が多くなると、読む方もどれくらいの比率なのか理解不能に陥る。

 そこで、数学的に桁数を圧縮できる常用対数を用い、電力の比率が大きいときの桁数を圧縮した。この電力比を対数化した比率をベルと呼ぶ。

 電子回路の設計において、電力比を扱う頻度を考えると、実は1桁の倍率を扱うことが多い。ここで、電力比2倍を常用対数で表すと、log2=0.3010となり、真数で1桁の倍率が、対数では、0.****と小数で表される倍率になってしまう。そこで、真数が1桁の倍率のときに、対数化した倍率も小数ではない1桁の値にするために、桁合わせを行い、対数を10倍した。10倍の表現として、1リットル=10デシリットルのようにデシを使うので、電力比としてデシベルが使われるようになった。

 例えば電力が2倍になったとする。比の値は2だが、これを対数で圧縮してlog2、すなわち0.3010とする。これに10を掛けると3.010になる。つまり、3dBというのは、約2倍という意味である。同様に、30dBは1000倍、逆に電力比が1より小さい1/1000倍では-30dBと、デシベルにマイナスを付けて表す。

 デシベルを説明した本に、「デシベルは、電力で計算するときは10log(電力比)となるが、電圧や電流では、20log(電圧比)、20log(電流比)と計算する」と説明されている。ここで、デシベルに慣れていない人は、「電力で10dB増えるということは、電圧では20dB増える」と考えてしまう。よく、こうした人を見かけるが、これは大きな誤りである。この式はある条件の下で使える。

 これを説明するために、増幅器を例にして、その利得を、定義、すなわち、デシベルは電力の比率ということに基づいて、計算してみる。

 増幅器の前後のインピーダンスで表される素子にかかる電圧V1とV2を用い、オームの法則から素子に発生する電力を計算する(図4)。ここで、2つのインピーダンスR1とR2が等しいとき(これが上述の条件)は、それらが約分されて、次のように計算できる。

図4 増幅器の電圧利得をデシベル表記する
増幅器の利得を、増幅器の前後のインピーダンスにかかる電圧V1とV2で表し、デシベル表記する。
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 この式から、増幅器の電力利得が100倍、すなわち20dBのとき、電圧の比はオームの法則から10倍であることを忘れてはならない。100倍の電力利得は、電圧利得では10倍となり、共に20dBである。