前回までに、無線通信に使える高周波を扱う上で不可欠な電磁気学について説明した。その電磁気学を基に、今回は「アンテナとは何か」について解説する。まずアンテナ設計の意味を簡単に述べた後、アンテナから電波が空間に放射されるメカニズムについて説明する。(本誌)
アンテナとは、電波などの電子エネルギーを空間に放射するための、電子回路と空間とのインターフェースである。
アンテナを設計するとき、アンテナの利得の基準になるのは点波源であるので、これについて最初に簡単に説明しておく。点波源は大きさを持たないため周波数(波長)に依存せず、また、点波源はどこから見ても同じ形(点)をしているので、全方向に球状に電波を放射する。長さや大きさを持たない波源は現実には存在しないが、これを概念としてアンテナの基準とすることで、アンテナの設計や評価がしやすくなるのだ。この仮想の点波源を「アイソトロピックアンテナ」と呼ぶ。
特定の方向に強く放射
一方、大きさを持つ現実のアンテナは大ざっぱな言い方であるが、いろいろな方向からアンテナを眺めたときに、アンテナが最も大きく見える方向に電波が最も強く放射される。アンペールの法則(右ねじの法則)を思い出そう。電流が流れると、電流に直交したループ状の磁界が発生する。
次に、アンテナの設計とは何か。アイソトロピックアンテナは点波源なので、球状に電波を放射する。アンテナを点から線状にすると、その線が一番長く見える法線方向に、電波を強く放射させることができる。その線を、直線からいろいろな形に変形させ、目的の放射パターンとなるように試行錯誤することがアンテナの設計といえる。
アイソトロピックアンテナからの球状放射を風船に例えると、その風船を変形させて目的の方向に強く電波を放射させるのがアンテナの設計後の放射パターンといえる。風船を絞り上げ、目的の方向にぐっと電波を押し出してあげるようにアンテナの形状を考えるのである(図1)。
アンテナ設計の詳細については、連載の次週以降で詳しく解説する。その解説がよく理解できるように、今回はアンテナによって電波が空間を伝搬するメカニズムについて解説する。