前回前々回に続き、MEMS(微小電子機械システム)によるセンサー/アクチュエーターに関する先端技術動向を映す国際会議「Transducers 2017」で今後の産業界に影響を与えると筆者がみる発表を紹介する。連載の最終回である。

活況続く弾性波フィルター

 今回、「Industry Session」で、FBARフィルター実用化の立役者である米Broadcom社のRichard Ruby氏が「FBAR Impact on Mobile Phones」と題して講演した。2016年にBroadcom社がMEMSの売上高ランキングで2位になったことに象徴されるように、弾性波フィルター市場は活況だ。

 近年、移動体通信用周波数バンドは増え続け、現在、世界中には50ものバンドがあり、高性能スマートフォンには多数の弾性波フィルターが必要になっている。また、キャリアアグリゲーションを規格に含むLTEの導入後、非線形性やパワーハンドリングについて厳しい仕様が弾性波フィルターに求められており、連続的な性能向上が進められている。

 さらに、無線フロントエンド部が高度に複雑化したため、弾性波フィルターやアンプなどのデバイスは、単体ではなくモジュールとして供給されるようになってきた。無線フロントエンドに必要なデバイスを揃えていないと、市場で競争に勝ち残れないため、米TriQuint Semiconductor社と米RF Micro Devices社との合併(米Qorvo社の誕生)、パナソニックのSAWフィルター事業の米Skyworks Solutions社への譲渡、米Avago TechnologiesによるBroadcom社の買収が立て続けに起こった。

 弾性波フィルターの数は増えてもデバイスの販売単価の下落は抑えられており、Broadcom社とQorvo社のMEMS売上高ランキングが急上昇した。この状況はしばらく続きそうだ。

 今後も無線通信トラフィックは増える一方だ。それに応えるため、数年後には高い周波数を新たに用いる第5世代(5G)通信サービスが開始される。今後も限られた周波数範囲にできるだけ多くの無線通信を収容するため、弾性波フィルターに一層の高性能化が求められていく。

 非連続な高性能化をもたらす新しい技術として、極薄の圧電単結晶板が支持基板に支えられたHetero Acoustic Layer(HAL)構造を用いるものがあり、ここ数年、我々もその研究に力を入れている(図5)。最近、最大手の村田製作所が極薄の圧電単結晶板を用いたSAWフィルターの実用化を発表した(同社の報道発表資料)ことから、この種の技術に注目が集まっている。Transducers 2017でも関連技術の発表が何件かあった。

図5 HAL (Hetero Acoustic Layer) SAWデバイスの構造
図5 HAL (Hetero Acoustic Layer) SAWデバイスの構造
圧電単結晶極薄板の厚さはSAWの波長程度以下と小さい。弾性波エネルギーが圧電単結晶薄板に閉じ込められるため、高い電気機械結合効率とQ値が得られる。材料の組合せによって温度特性の補正も可能。