前回に続き、MEMS(微小電子機械システム)によるセンサー/アクチュエーターに関する先端技術動向を映す国際会議「Transducers 2017」で今後の産業界に影響を与えると筆者がみる発表を紹介したい。

マイクロミラーは計測向けに

 微小ミラーを動かして光線を制御するマイクロミラーデバイスでは、想定している応用が空間認識などの計測向けに変化していることが分かる。従来の想定用途は、主にピコプロジェクターやHUD(ヘッドアップディスプレー)だった。

 今回の国際会議では、こうした計測用途に向けたデバイスをカナダUniversity of WaterlooとカナダAdHawk Microsystems社が発表した(論文番号:T2D.001、pp. 250-253)(図3)。VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)から送出したレーザー光を回折素子の2次元スキャナーを用いて照射し、指先からの反射光を検出する。スマートウォッチに仕込んで文字入力に使う応用が想定される。

図3 MEMSスキャナーで指先トラッキング
図3 MEMSスキャナーで指先トラッキング
上は試作品、下は指で空に書いた「trans 2017」の読み取り結果(Transducers 2017、論文番号:T2D.001、pp. 250-253、University of WaterlooとAdHawk Microsystem社のデータ)。
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 似た入力システムには、超音波レンジファインダー(測距装置)がある。米University of California, Davis校の教授のDavid Horsley氏らによるスタートアップ米Chirp Microsystems社が、InvenSense社のプラットフォーム(下記に関連記事)を用いてデバイスを開発した。我々は、今回、単結晶PMnN-PZT圧電薄膜を用いた超音波レンジファインダーを発表した(論文番号:T1C.005、pp. 169-172)。1Vと低電圧で動作し2 mまでの距離測定が可能である。

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 VR用ヘッドセットの位置検出にもマイクロミラーデバイスや超音波レンジファインダーは有用である。最近、VRが盛り上がりを見せ、IT大手企業やベンチャー企業から数多くの製品が登場している。ただし、位置トラッキング機能を有するものは台湾HTC社の「VIVE」などに限られている。VIVEは2つのベースステーションから、灯台のように赤外線の走査光を照射し、ヘッドセット表面に実装した32個の赤外線センサーで検出して、数m角の範囲でヘッドセットの位置をトラッキングする。赤外線の走査は、一般的な電磁モーター駆動による。より広範囲で正確な位置トラッキングができるヘッドセットは、エキサイティングなVR体験を提供できる。筆者は、ヘッドセット・グローブ・ベストを身に付けて、建物内を実際に歩いて体験するVRテーマパーク「The VOID」のプロモーションビデオを見たが、その可能性を十分に感じさせるものだった。

 マイクロミラーデバイスの製品化で先行している米Microvision社は、第2世代品を使った中距離(数十m)向けLiDARを開発、産業応用を本命としつつ自動車応用の可能性もうかがっている。ただし、マイクロミラーデバイスを用いたLiDARは、新しく登場したソリッドステートLiDARと競合することになる。Microvision社は、自動車用HUDの開発も続けているようだが、広い温度域での技術的問題から純正品としての採用は難しいとみられ、近々、第1世代品のようにアフターマーケット品として販売したいと考えているようだ。伊仏合弁のSTMicroelectronics社のマイクロミラーデバイスも、指や手の動きを認識する入力デバイスである米Intel社の「RealSense」などの計測応用に用いられている。