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スポーツとイノベーション

デュアルキャリア支援の意義、アスリートから社会貢献へ

「ハイパフォーマンスセンター」が目指す未来(2)

2016/12/19 00:00

内田 泰=日経BP社デジタル編集センター

 日本スポーツ振興センター(JSC)は2016年4月、「ハイパフォーマンスセンター」を開設した。開催まで4年を切った東京五輪・パラリンピックに向け、トップアスリートの競技力向上のための研究・支援を主な目的としている。しかし、ハイパフォーマンスセンターが目指すのはそれだけではない。「2021年以降」も見据え、アスリートのキャリア支援や、研究で得た知見の異分野への転用など大きな構想を描いている。

 久木留毅氏(専修大学 教授でJSC ハイパフォーマンス戦略部長)、田中ウルヴェ京氏(ソウル五輪シンクロ・デュエットの銅メダリストで、現在は会社経営の傍らメンタルトレーニング上級指導士として活躍)、そして神武直彦氏(慶應義塾大学SDM研究科 准教授でハイパフォーマンス戦略部マネージャー)の3者対談による連載『「ハイパフォーマンスセンター」が目指す未来』の第2回(第1回はこちら)では、ハイパフォーマンスセンターの取り組みや将来ビジョンの詳細に話が及んだ。(構成:内田泰=日経BP社デジタル編集センター)

対談の様子。左から神武氏、田中氏、久木留氏(写真:加藤康)
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神武 スポーツ庁が2016年10月3日に発表した「競技力強化のための今後の支援方針」、いわゆる「鈴木プラン」ではハイパフォーマンスセンターの機能強化が、6本柱の1つに据えられました。まず、久木留さんにトップアスリートを主な対象にしたハイパフォーマンスセンター設立の目的とビジョン、現状と課題を伺いたいと思います。

久木留毅(くきどめ・たけし)。日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンス戦略部長/専修大学 教授。専修大学卒業、筑波大学大学院体育研究科修了(体育学修士)(スポーツ医学博士)、法政大学大学院政策科学専攻修了(政策科学修士)、英国ラフバラ大学客員研究員。日本レスリング協会特定理事、元ナショナルチームコーチ、テクニカルディレクター等を歴任。2015年10月1日より、文部科学省および経済産業省のクロスアポイント制度にて日本スポーツ振興センターに在籍出向中(写真:加藤康)
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久木留 2015年1月に、東京都北区西が丘にあるJSCの強化・研究活動拠点に関する有識者会議が「トップアスリートにおける強化・研究活動拠点の在り方についての調査研究」という報告書を出しました。1年をかけて取りまとめたものです。内容は西が丘の味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)、国立スポーツ科学センター(JISS)および拡充予定の協働(オリパラ一体)のナショナルトレーニングセンターを、ハイパフォーマンスセンターと位置付けて機能強化を図っていこうというものです。

 そのときのキーワードが4つあります。(1)統合性と革新性、(2)持続性と連携性、(3)国際性、(4)卓越性です。具体的に何をやるかというと、統合性と革新性については五輪・パラリンピックが一体となった協働体として推進すること。持続性と連携性については、田中さんが前回ご指摘のように「デュアルキャリア」(「人としての人生」と「競技者としての人生」を同時に送ること)が関わってきます。

 持続性と連携性でデュアルキャリアと言ったのは、やはり大学や企業と連携しないと持続性の実現が不可能だと考えたからです。

 国際性は、やはりネットワークです。なぜネットワークかというと、私が自ら選手・コーチ・監督を経験してきて、政策にも関わっていた際によく言われた言葉が「ファーイースト(Far East)」、つまり極東だからです。極東である日本が世界の中で、どうすれば情報を取れるかというと、ネットワークが重要になります。JSCは今、7つの国の組織と連携協定を結んでいます。ネットワークは国際性と強くリンクしているので、これを完成させるのが、2020年の東京五輪・パリンピックだと思っています。

 最後に卓越性の部分でデータベースの構築と言ったのは、「エビデンスベースド(科学的根拠)」「可視化」という今後のスポーツ界にとって重要なキーワードを遂行する際に不可欠になるからです。私がJSCに出向したのは2015年10月1日ですが、JISSでも残念ながら、栄養は栄養、心理は心理、メディカルはメディカルというようにデータベースは縦割りでした。

 私はそれをつぶさに観察しながら多くの人の話を聞くなかで、絶対に統合的なデータベースが不可欠なことを確信し、その構築のための予算措置の草案をずっと作っていました。従って卓越性については、このようなデータベースを完成させていくのが、ハイパフォーマンスセンターの将来的な構想です。

 2021年以降、JSCの予算は間違いなく大幅に削減されます。そのとき、中心にあるハイパフォーマンスセンターの機能をがっちり固め、外に出せるものはどんどんアウトソーシングしていき、外部と連携しなければ組織がもたないだろうと考えています。その象徴がデュアルキャリアなのです。

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