「開催中止」通告を乗り越えて人気イベントへ

 前述のように、各大会は経済面でも高い成果を出し、県内外からの人気も高い。だがいずれの大会も、立ち上げからすべてが順調だったというわけではない。ディスカッションでは各大会が軌道に乗るまでに乗り越えてきた課題についても披露された。

 各大会に共通した課題は、地元住民や自治体の理解を得ることだった。宮城県で開催する東北風土マラソン、ツール・ド・東北の場合、震災復興のために何かしないといけないという思いは理解してもらえるものの、各自治体にはそれまで大規模なスポーツ大会を開催した前例はなく、「警察に道路使用許可をもらいに行っても門前払いだった」(須永氏)、「企画途中で中止になったという話が出て落ち込んでいたが、その裏では実施する前提で進んでいるということもあった」(田中氏)と、多くの混乱もあったという。また宮田氏は「ビジネススキルが通用しなかった」と口にした。

 「はじめに大会を企画し、地元自治体や観光協会にプレゼンをするとき、綺麗な企画書を書いて持って行きましたが、その時はこちらの話がまったく刺さりませんでした(笑)。また、基本的に彼らはメールを読まず、話をするなら会いに行く、それが無理なら電話するという順番でないとだめでした。だから、何度も足を運んで、時には一緒にお酒を飲み“このイベントは5年先、10年先のためになるものです”と口説き続けたのですが、簡単にはいきませんでした」(宮田氏)

 そんな中でも白馬国際トレイルランは地元の自治体、観光協会、企業を主管として開催にこぎつけたが、第1回大会は「数百万円の大赤字」で、「2回目は開催しない」と通告されたという。

 「でも、参加したランナーの方々や地元の人々には非常に好評で、“ぜひ2回目も”という雰囲気でした。そこで、第2回大会は自治体が主管になるのではなく、白馬村の旅館やホテルの若旦那や、地元で暮らす若者が主管となり、自分たちの責任で開催することになりました。そうした覚悟を見せたところ、自治体や観光協会なども後援という形で協力してくれました」(同氏)

 その結果、第3回大会以降は地元の若者や自治体が渾然一体となった形で主催者となることができた。地域の協力も積極的で、例えばマイクロバスや草刈機など、大会運営に必要な機器や設備を地元の人々が貸してくれ、経費削減につながっているという。こうした協力は「第1回の赤字で、多くの方に負担や迷惑を掛けてしまったが、今思うとその赤字には意味があったかもしれない」(同氏)という。

「覚悟」を見せて地元の協力取り付ける

ツール・ド・東北のプロジェクトマネージャー/大会事務局長でヤフー コーポレート統括本部プロデューサー/東北共創チームリーダーの須永浩一氏。東日本大震災後、自身がボランティアで被災地を訪れたことがきっかけとなり、ツール・ド・東北の立ち上げを行う
ツール・ド・東北のプロジェクトマネージャー/大会事務局長でヤフー コーポレート統括本部プロデューサー/東北共創チームリーダーの須永浩一氏。東日本大震災後、自身がボランティアで被災地を訪れたことがきっかけとなり、ツール・ド・東北の立ち上げを行う
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 白馬国際トレイルランと同様、ツール・ド・東北の場合も「覚悟」を見せることで地元が協力的になっていったと、須永氏は言う。

 「通常、こうしたイベントは実行委員会を作り、複数の企業や団体が名を連ね、お金や人を出し合ってリスク分散をしますが、ツール・ド・東北はヤフーと河北新報社の二社が主催者となり、実行委員会形式にはせず、何かあっても2社の責任であることを宣言して自治体や地元住民に我々の覚悟を見せました」(須永氏)

 最終的には自治体も含んだ実行委員会は作ったものの、実行委員会はあくまでもアドバイザリー的な立ち位置だったという。その結果、第2回大会以降は開催にも協力的になり、2016年の第4回大会では石巻市が地方創生加速化交付金を取得し、大会運営費に充てられたという。

 「4回目にして、自治体の方々が自分の事として大会を捉えてくれるようになった。いずれは主管を地元自治体に移すべきという考えもあるのですが、そのためのステップになったと思います」(須永氏)

 スポーツに限らず、なんらかのイベントによって地方創生を図るためには、「どれだけの覚悟を持っているのか」という、一見ビジネスとは真逆にも見えるキーワードが重要になる。ただそれは、箱物行政や大手代理店などが企画して地元に根付かなかったイベントなど、過去の失敗事例を見ているからこそであるのだろう。 (続く)