近年、地方創生を目的としたスポーツイベントが増えている。なぜスポーツが地方創生のフックとなるのか、スポーツは本当に地方創生に役立っているのか――。そうしたことを考えるのに絶好の機会となるパネルディスカッションが開催された。
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)が主催したスポーツ産業カンファレンス「KEIO Sports X」(2016年10月11日)での、「スポーツ×地方創生 ~白馬国際トレイルラン/東北風土マラソン/ツール・ド・東北の事例から~」だ。その模様を2回に渡ってお伝えする。
地方創生のフックとして注目集めるスポーツ
いま、多くの地方で創生のための取り組みが行われている。その地域が持つコンテンツと新しい何かを掛け合わせることで話題を集め、人を呼び、地域の経済とコミュニティを活性化させる。その「新しい何か」のひとつとして、近年、スポーツに注目が集まっている。
同パネルディスカッションには、スポーツ×地方創生という切り口で最前線を行くキーパーソンが集結した。白馬国際トレイルランの発起人であるユーフォリア 共同代表取締役の宮田誠氏、東北風土マラソンの実行委員でラストワンマイル 代表取締役 の田中直史氏、ツール・ド・東北のプロジェクトマネージャー/大会事務局長でヤフー コーポレート統括本部プロデューサー/東北共創チームリーダー の須永浩一氏の3名。モデレーターは各大会にボランティアスタッフとして参加した経験を持つ、ヤフー 地方創生支援室長の石田幸央氏が務めた。
民間主導で町おこしに成功している各大会
白馬国際トレイルラン、東北風土マラソン、ツール・ド・東北の3つの大会は、いずれも、タイムや勝敗を競うよりも、走ること、参加することを楽しむ「ファンラン・ファンライド」のイベントだ。各大会ともにランナー、ライダーからの人気の高いイベントだが、そもそも各大会はどのような目的、経緯で開催されることになったのか。登壇した3氏は次のように説明した。
「しかし、ご存知のように白馬村は1998年に冬季オリンピックを開催した地であり、地元の人々はスポーツに対する抵抗感がありませんでした。地域活性化のために何をするかということについては大いに悩みましたが、最終的には “ここで何かをやるならスポーツだろう”という考えに至り、トレイルランの大会をスタートしました」(同氏)
「東北風土マラソンは、“リアリティのある震災復興”をしたいという考えからスタートした大会で、被災地に足を運んで消費してもらい、その場所の良さを知ってもらうことを目指しています。以前は宮城県内にはフルマラソンの大会はなかったため、県内のランナーも多く参加していますし、県外から来る方も、大会のついでに開催地の周辺を観光していて、当初の目的はある程度達成できていると思っています」(田中氏)
「ツール・ド・東北という大会は、実は1952年〜1971年にも開催されていました。当時、東北地方は第2次世界大戦の影響で道路事情が悪化していました。その改善を目的に、宮城県の地元紙である河北新報社と日本自転車競技連盟の主催で行われたものです。2011年に東日本大震災の影響で再び東北地方の道路事情が悪化してしまったため、震災復興を目指して、2013年から大会を復活させることにしました。シリアスな支援ではなく、もっとライトに、外部から人が集まるきっかけとなることを目指しています」(須永氏)
いずれの大会も民間が主導している大会であり、そのため、助成金にも頼っていないという。その中でも、各大会ともに高い費用対経済効果を誇っている。人気の高さだけではなく、実際に経済の面でも地域に貢献をしている事例なのだ。