近年日本サッカー協会が積極的に取り組む改革。その旗振り役の一人が2018年3月に専務理事に就任した須原清貴氏である。これまで数々の民間企業で「プロ経営者」としてらつ腕を奮ってきた須原氏は、今、日本サッカー界に何をもたらそうとしているのか。須原氏へのインタビューの後編では、同氏が思い描くJFA、そして日本サッカーの未来図について語られた。(聞き手:上野直彦=スポーツジャーナリスト、久我智也)

ゴールは「自らの後継者を内部から生み出す」こと

須原さんは日本サッカー協会(以下、JFA)専務理事の職に就いてから、人事部長を公募したり、人事部を独立させるなどの取り組みを行っています。こうした組織改革の狙いはなんでしょうか。

須原 今回はたまたま人事部だったので「人事」というキーワードが注目されていますが、本質的には、リーダーシップを持ったメンバー、経営センスを持ったメンバーを集め、お互いに壁打ちができる経営チームを組成したいと思っています。JFAの叩き上げのメンバーの中にも人事部長を務めることができる人間はたくさんいますが、その力を持っている人には今、どうしても他のことをやってもらわないといけないので、人事部から手を付けたということになります。

 これまでのJFAには「人事部」という独立した部署はなく、総務部や経営企画部の中に、グループや課として人事を担当するチームがありました。組織規模から考えてもそれは十分正しいことだったと思っています。ただ私は、JFAは「サッカーファミリー」というお客様に対してサッカーを楽しんでいただける環境を提供するためのサービス業であると考えています。サービス業は、人が人に対して目に見えないものを提供する仕事です。

 ですから、提供する人であるメンバーが楽しく仕事をして、デモチベーション(意欲を失うこと)が少しでも少なくなる環境を提供することが、結果的にお客様により良いサービスを提供することになります。そう考えると、そのハブとなる人事を強化し、そこに外部からリーダーシップを持ったメンバーを招聘することが重要と考え、こうした取り組みを実践することになりました。

須原さんご自身もそうですが、外部から人を入れることの重要性についてはどうお考えでしょうか。

須原 「経営者としてのゴールは何ですか?」と問われた時、幾つかのゴールがありますが、そのうちのひとつが「自らの後継者を内部から生み出す」ことです。次期経営者が内部昇格で出てくる、それがサイクルとしてつながっていく組織をつくることが、私の経営の信条です。外部から人が入ってくるということを否定はしません。しかし、これは自己否定につながってしまうのですが、それが続いてしまうと組織は成長しないので、絶対に良くないことなんです。

 組織や内部の人間が強くなっていく過程で、外部の人間と内部の人間がブレンドされて組織を構築することは極めて効率的であり、意味のあることだと思います。また、叩き上げの人間はその業界やサービス、プロダクト、関わる人を非常に良く知っているのですが、その分、成功体験の呪縛に陥ったり、新しい発想が出てこなくなる可能性もあります。その際、化学反応を起こす触媒として、私のような外部から来た人間が必要である場合もあります。ただ、それはあくまでも刺激に過ぎず、触媒に過ぎません。最も重要なのは中で人材が育つ環境をつくることだと思っています。

JFA専務理事の須原清貴氏。1966年、岐阜県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、住友商事に入社。ボストンコンサルティンググループ、キンコーズ・ジャパン、ベネッセホールディングス、ドミノ・ピザ ジャパンなどを経て、2018年3月より現職。ハーバードビジネススクールMBA。2級審判員、3級審判インストラクターの資格も保有する
JFA専務理事の須原清貴氏。1966年、岐阜県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、住友商事に入社。ボストンコンサルティンググループ、キンコーズ・ジャパン、ベネッセホールディングス、ドミノ・ピザ ジャパンなどを経て、2018年3月より現職。ハーバードビジネススクールMBA。2級審判員、3級審判インストラクターの資格も保有する
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