日本のスポーツ産業の市場規模は2012年時点で5.5兆円、GDP(国内総生産)比はわずか1.0%であった。これは他国と比較しても低い。例えば米国は49.6兆円でGDP比は2.9%、中国は28.5兆円でGDP比2.2%。お隣の韓国は3.7兆円と、金額自体は日本よりも低いがGDP比は2.8%に達しており、それだけスポーツ産業を重要視していることが分かる(いずれも2012年時点の数字)。

 そんな状況下、2016年6月、スポーツ庁と経済産業省が共同で開催している「スポーツ未来開拓会議 中間報告」で、日本のスポーツ産業の市場規模を2025年時点で現在の3倍である15.2兆円にまで押し上げるとの目標が明記された。その構成要素として挙げられているのは次の6つだ(各要素の後の数字は試算値)。

諸外国に遅れを取る日本のスポーツ産業化。15兆円という目標達成のためには、2020年東京オリンピック・パラリンピックの成功はもちろんのこと、その前後の取り組みが重要となる(出典:スポーツ庁・経済産業省)
諸外国に遅れを取る日本のスポーツ産業化。15兆円という目標達成のためには、2020年東京オリンピック・パラリンピックの成功はもちろんのこと、その前後の取り組みが重要となる(出典:スポーツ庁・経済産業省)
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 (1)スタジアム・アリーナ(3.8兆円)、(2)アマチュアスポーツ(0.3兆円)、(3)プロスポーツ(1.1兆円)、(4)スポーツツーリズム等の周辺産業(4.9兆円)、(5)IoT(Internet of Things)活用(1.1兆円)、(6)スポーツ用品(3.9兆円)――。

 この中で、(2)アマチュアスポーツと(5)IoT活用(施設、サービスのIT化推進とIoT導入)は、2012年時点の5.5兆円という数字の中にはカウントされていない。つまり、マーケット自体をこれから作っていかなくてはならない分野というわけだ。

 このようにスポーツIoTビジネスに対する期待が高まる中、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科が主催したスポーツ産業カンファレンス「KEIO Sports X」(2016年10月11日)では、「国内スポーツベンチャーの挑戦」と題したパネルディスカッションが行われた。モデレーターを務めた慶應SDM研究科特任講師/ユーフォリア代表取締役 橋口寛氏。パネリストとして参加したのは、スポーツセンシング 代表取締役社長 澤田泰輔、SPLYZA(スプライザ) 代表取締役社長 土井寛之氏、CLIMB Factory(クライムファクトリー) 代表取締役 馬渕浩幸氏の4人。いずれもスポーツIoTビジネスを展開するベンチャー企業の要職に就く人物である。4氏は「スポーツ産業におけるIoTビジネスの現状と課題、今後」について議論した。ディスカッションの模様を2回に渡って紹介する。

「ビジョン」より「時流」によって活性化

パネルディスカッションのモデレーターを務めた慶應SDM研究科特任講師/ユーフォリア代表取締役の橋口寛氏
パネルディスカッションのモデレーターを務めた慶應SDM研究科特任講師/ユーフォリア代表取締役の橋口寛氏
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 まず話題に上がったのが、スポーツに対する経済的な注目度の高まりに伴い、「IoTをめぐる状況は変化しているのか」についてだった。アスリートの体調管理を行うクラウドサービスなどを展開するユーフォリアの橋口氏は「スポーツ産業という分野の中で、活性化している領域とそうではない領域のギャップが大きい」と感じているという。  

 地方公共団体などがスポーツと何かを掛け合わせることで地域を盛り上げていこうという施策を展開している事例は増えているものの、そうした熱気は、スポーツ産業を構成するすべての分野に達してはいないというのだ。

 しかし政府の取り組みとは別要因によって、スポーツIoTが活性化することもあるという。アマチュアアスリート向けにトレーニング支援用スマホアプリの開発を行うスプライザの土井氏が挙げたのは「スマートフォン(スマホ)普及率の向上」と「通信インフラ環境の向上」だ。