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スポーツとイノベーション

Jリーグ、「地域活性化」の鉱脈は海外展開にあり

「KEIO Sports X」報告(2)

2016/11/09 00:00

久我 智也

 創設から20年以上が経ったJリーグ。英パフォームグループと2017年から10年間、総額2100億円にものぼる放映権契約を結び、今、世界に打って出ようとしている。Jリーグ国際部部長の山下修作氏が、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科が主催したスポーツ産業カンファレンス「KEIO Sports X」(2016年10月11日)で語った、Jリーグ海外戦略の後編(前編はこちら)を談話形式でお伝えする。

アジア全体の成長促進へ、ノウハウ無償提供

Jリーグ国際部部長の山下修作氏。2005年よりJリーグ公認サイト「J’s GOAL」の運営やJリーグのWebプロモーション事業に従事し、2015年4月よりJリーグ国際部にて海外戦略を担当
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 アジアの多くの国は、プロサッカーリーグを持っています。韓国や中国だけではなく、カンボジアにもラオスにもプロリーグはあります。さらにアジアの人は観るスポーツとしてもサッカーが大好きで、多くの国で「観るスポーツで一番好きなのはサッカー」という調査結果もあります。

 そんな大好きなサッカーに、国の要人が関わっていることが多いのもアジアの特徴の一つです。皇太子や軍のトップ、財閥のトップというような人々が、自分でクラブを持っていたり、リーグを経営していたり、サッカー協会の会長の座に就いていることも珍しくありません。そうした人々は、「日本は少し前までサッカー弱小国だったのに、なぜ今はあんなにも強くなったのか」と、日本に注目しています。そのため、私のような人間が打ち合わせに行っても、皇太子が直々に出席するようなことが普通にあるのです。

 そのような状況を目の当たりにし、私はアジアの国々にノウハウを売って収益を上げるというビジネスモデルを改めることにしました。単純にノウハウを売ってJリーグだけを成長させるよりも、アジアのサッカーマーケット自体の成長を促し、全体の市場を大きくする方が、将来的にはJリーグへのリターンも大きくなると思ったのです。

 そこで、アジア全体の成長のために、Jリーグのノウハウを各国に無償提供することに決めました。我々の持つノウハウを提供すれば、その分、各国の代表チームも強くなるし、リーグも盛り上がる。そうすれば、ヨーロッパに流れるお金の何分の一かが国内に使われるようになり、その国のサッカーのマーケットが成長する。その連鎖が続けば、アジア全体のサッカーマーケットも拡大していくことになります。各国のサッカー界の要人たちも、日本のノウハウを手に入れるのは大きなメリットになりますので、我々の申し出も快く受け入れてくれます。こうして、Jリーグとアジア各国の協力体制が構築されてきているのです。

サッカーは「観るスポーツ」としてアジアで断トツの人気を誇る(出典:博報堂 Global HABITレポート 2012年)
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日本企業のグローバル展開をサポート

 ノウハウを無償提供することで得られるメリットは、市場が拡大するということだけではありません。先ほど話したように、アジアの国々では政財界の要人がサッカー協会の重役を担っていることが多いので、そうした人々と日本の企業や自治体を結びつけるという効果もあるのです。

 例えばミャンマーにマックス・ミャンマーという財閥があります。とある日本企業がミャンマーで新たなビジネスをするためにマックス・ミャンマーにアプローチをしたいのだけれども、なかなか財閥のトップに会うことができませんでした。

 しかしJリーグが橋渡しをすることで、その日本企業はすぐにマックス・ミャンマーの代表とコンタクトを取ることができました。マックス・ミャンマーの代表が、ミャンマーサッカー協会の会長も務めているからです。財閥のトップとしてはアポイントを取ることができなくても、ノウハウを提供することで構築した関係性があるので、サッカー協会の会長としてアポイントを取ることは難しいことではなかったのです。このときは、日本企業がミャンマーにスタジアム一体型のショッピングモールを作りたいという話をしにいき、マックス・ミャンマーの代表も非常に乗り気になっていました。このように、Jリーグとサッカーをハブにして、アジア各国の要人と日本の企業をつなげた事例は数多くあります。

 かつて企業や自治体にとって、スポーツは“コストセンター”でした。例えば企業がクラブのユニフォームスポンサーになったとしても、それによってその企業の売り上げがどれだけ伸びたかを測ることはできません。費用対効果が見えないのだから、不況になれば真っ先に撤退されてしまっていました。しかしJリーグに関わることでグローバル展開を有利に進められるというメリットを認められれば、スポンサー企業にも大きな価値を提供することになります。

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