このような流れをさらに強化していけば、スポーツをコストセンターではなく“プロフィットセンター”としてみてもらえるようになります。サッカーの価値が企業に認められれば、リーグやクラブのスポンサーが増えることにもつながり、利益が増えて行く。つまり、Jリーグの海外展開が進んでいくことで、サッカーと企業のWin-Winの関係を構築できるようになるのです。

山下氏は、Jリーグ単体のマーケットを拡大するよりも、アジア全体のサッカーマーケットを拡大することで、Jリーグにより大きなメリットがあるとする
山下氏は、Jリーグ単体のマーケットを拡大するよりも、アジア全体のサッカーマーケットを拡大することで、Jリーグにより大きなメリットがあるとする
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海外展開でさらなる地域活性化

 Jリーグには「地域密着」という理念があります。ここまでの話を聞き、「海外に目を向けることで地域への取り組みがおろそかになるのではないか」「海外よりも日本の各地域を優先すべきではないか」と言いたくなるかもしれませんが、もちろんJリーグは地域密着の理念を捨てたわけではありません。むしろ海外展開をすることで、さらなる地域の活性化につながると考えています。

 今、クールジャパンと称して音楽やアニメ、ファッションといった日本のカルチャーを海外に積極的に発信しています。それによって外国の人々に「日本に行きたい」と思ってもらったとしても、ある特定の地方に行きたいとはなかなかなりません。そこで「地方に行きたい」「地方のことをもっと知りたい」と思わせるのがJリーグなのです。

 Jリーグではクラブの名前に必ず地域名を入れなくてはなりませんから、例えばヴァンフォーレ甲府という山梨県のクラブにアジアの国のスター選手が加入すれば、「甲府」という街の知名度が上がりますし、その国のファンが「自分たちの国のスターの試合を見るために甲府に行ってみよう」となり、地域のインバウンドにつながっていきます。Jリーグには、クールジャパンの一歩先にある「クールローカル」を実現できる可能性を秘めているのです。

 例えば2016年、茨城県に本拠地を置く水戸ホーリーホックというチームにベトナムからグエン・コン・フオンという選手が加入しました。茨城県にはJリーグ創設時からの強豪である鹿島アントラーズがありますので、県内の人気は鹿島アントラーズが圧倒的でした。

 しかし、グエン・コン・フオン選手は「ベトナムのメッシ」と称されるベトナムの国民的スターです。その彼が加わったことにより、ベトナムで水戸ホーリーホックという名前が一気に有名になりました。グエン・コン・フオン選手を通じてベトナムでさらに「茨城」「水戸」の名前を広めるために、茨城県は彼を「いばらきベトナム交流大使」に任命しました。こうしたことによって、今、ベトナムにおいては鹿島アントラーズよりも浦和レッズよりも、水戸ホーリーホックが一番有名な日本のチームになっているのです。

 そうすると、これまで水戸ホーリーホックの市場は主に茨城県民だけだったのが、海外との関わりを持つことで、ベトナムの9000万人以上が市場となるのです。こうして海外とのつながりを強化することによって、地方にいることが弱みではなくなるのです。

 実際、水戸ホーリーホックはベトナム航空という、ベトナムの一流企業のスポンサードを得ました。さらに、ベトナムから茨城空港に直航便が飛ぶようにもなり、チームだけではなく、茨城、水戸という地域にも大きなメリットを与えることになったのです。

 今回紹介した事例はほんの一部ですが、今、Jリーグを通じて日本を世界にアピールする取り組みが盛んになってきています。我々は「Jリーグ号」という船で世界に進出していくのではなく、「オールジャパン号」という一つのプラットフォームとなり、Jリーグはコンテナの一つとして、日本企業や自治体、カルチャーなどとともに世界に進出していきたいと考えています。サッカーはアジア各国、世界中で人気のスポーツですので、日本に貢献するだけの力を持っていると思うのです。(談)