スポーツ庁は何を目指すのか。スポーツ行政と産業界はどのように手を携えていくべきか。スポーツ庁長官の鈴木大地氏が語ったスポーツ産業活性化に向けたグランドデザインとは。2015年12月に「スポーツイノベイターズオンライン」が開催したスポーツビジネスのシンポジウム「Sports Innovation Summit 2015」(主催:日経BP社)の口火を切った、鈴木長官による基調講演の内容をお届けする。
講演する鈴木大地・スポーツ庁長官(写真:加藤 康)
講演する鈴木大地・スポーツ庁長官(写真:加藤 康)
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目的は同じ、協力しながら

 スポーツ庁から来ました鈴木大地です。今日は、新しくできましたスポーツ庁と、そこで行われるスポーツ行政についてお話をしたいと思います。

 まずは自己紹介ですが、ついこの間まで大学の教員と日本水泳連盟の会長を務めていまして、2015年10月1日にスポーツ庁長官に就任しました。

 スポーツ庁は、2011(平成23)年に制定された「スポーツ基本法」で、設置についての検討を加えることとされましたが、法律制定の2年後に、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定し、これを契機にググッとスポーツが一段と盛り上がってきています。

 スポーツ基本法では、「国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営むことができる社会の実現を目指す」ということをうたっています。「すべての国民のスポーツ機会の確保」「健康長寿社会の実現」「スポーツを通じた地域の活性化」「経済の活性化」などが法律の趣旨です。

 スポーツ庁は文部科学省の外局という位置付けで、現在の組織は、長官以下、7つの部門で構成されています。

 例えば、スポーツ行政の全体を取りまとめる「政策課」や、健康増進について担当する「健康スポーツ課」、国際競技大会でメダルを獲得する競技力向上を担う「競技スポーツ課」、国際大会の招致や国際交流などを担当する「国際課」があります。

 このほか、2020年に向けてスポーツ団体との調整などを担う「オリンピック・パラリンピック課」と、スポーツを通じた地域おこしなどを支援する「地域振興担当」、産業界との連携促進やスポーツ人材の育成などを手掛ける「民間スポーツ担当」のそれぞれの参事官から成っています。

 スポーツ庁では、官民交流を目的に民間企業の人材も入ってもらい、業務をしていただいているところです。外務省や経済産業省、国土交通省、農林水産省といった省庁からも応援をもらっていまして、「お互いに目的は同じなので、協力しながら一緒に進めていきましょう」という話をしています。

 スポーツ庁の取り組みでまず挙げられるのは、「健康増進」です。スポーツ人口をあらゆる世代に拡大して、「健康寿命*1」と「平均寿命」の差を縮める。そして、スポーツを通じて、現状で約40兆円と言われる国民医療費を抑制していくことを目指しています。医療費が増大し続ければ、本当に日本はパンクしかねない。

*1 健康寿命=医療や介護に依存せず健康上の問題がない状態で生活を送れる期間

 それを抑制するカギが運動、スポーツです。そのために、新しい施策を打ち出していく必要があると考えています。健康でいられる期間を何とか長くして、医療費を少しでも抑制できれば大きな資金的な余裕が生まれるはずです。