ラグビーに学ぶ

 米国のアメフト関係者が脳振とうへの個別対策として力を入れているものに、タックル技術の改善がある。アメフトのタックルで危険とされるのが、頭部を下げることだ。頭部を下げると視野が制限されるため、死角から不意にコンタクトを受けやすくなる。その場合、頭部に回転力が加わって頭部外傷を受傷したり、頸椎(けいつい)を損傷したりするリスクが高まるという。

 そこで、頭部を上げた状態でタックルする「ヘッズアップタックリング」や、頭部を上げた状態でのブロック「ヘッズアップブロッキング」の指導を徹底しているという。

 2017年には「ショルダータックリング」がHUFのプログラムの1つになった。NFLのシアトル・シーホークスが提唱していた「ホークタックル」と、USA Footballの「ヘッズアップタックリング」を融合したものだ。要は、ラグビーで実践されている肩を入れるタックル、つまり頭を進行方向に入れないタックルのことである。アメフトはヘルメットをかぶるため、頭から当たりに行くことが従来は“文化”としてあったが、実はそこに危険があり、その意識を大きく変える取り組みだ。

 日本アメリカンフットボール協会も、ショルダータックリングがケガの減少に有効と判断して、2017年4月以降、国内でも普及させていく方針だ。

発生率高い高校女子サッカー

 実は、脳振とう問題はアメフトやラグビーなど体を激しくぶつけ合うスポーツに限らず、他のスポーツにも飛び火している。

 米サッカー協会は2015年、10歳以下の子どものヘディングを禁止、11~13歳以下の子どもは練習中のヘディング回数を制限すると発表している。因果関係に対する見解はさまざまだが、ヘディングの繰り返しによって脳機能や記憶力に悪影響を及ぼすと指摘する声が高まっているからだ。

 最近のある調査では、米国の高校スポーツで脳振とうの発生率が最も高いのは、女子サッカーであるという。男子に比べ頭を支える首回りの筋肉が、女性の方が弱い傾向にあるためだ。女子サッカーは米国の女子の間で人気スポーツで、世界の強豪の1つである。

 もちろん、こうした動きの背景には「訴訟社会」という米国の事情もある。法的なリスクは早めにつぶす、という考えが根底にある。

 この流れは欧州にも広がり、イングランド・プロサッカー選手協会(PFA)は2016年12月、10歳未満の子どものヘディングを禁止するようイングランドサッカー協会(FA)に提言している。

 今後、国内でもアメフトに限らず、コンタクトを伴う競技で脳振とう問題の対策を迫られる可能性もある。