スポーツ産業成長への重要なカギを握っているのが、「スポーツ・ヘルスツーリズム」の活用だ。3月8〜10日に開催されたイベント「ヘルスケア&スポーツ 街づくりEXPO2017」(主催:日本経済新聞社、日経BP社)に早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授の原田宗彦氏が登壇し、「スポーツ・ヘルスツーリズムによる地域イノベーション」について語った。その模様の後編を談話形式でお伝えする。
講演を行った早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授の原田宗彦氏
講演を行った早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授の原田宗彦氏
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 拡大を続けるスポーツ産業の一翼を担うと期待されるスポーツ・ヘルスツーリズムですが、これは地域に対しても大きな効果を与えるものです。では、地域はどのようにスポーツ・ヘルスツーリズムを活用していくべきか。私は内側(インナー)の政策と外側(アウター)の政策を立てて、活用していくことがカギになると考えています。

 インナー政策とは、地域資産形成型の政策、つまりその地域に住んでいる人のためのものです。スポーツに親しむ街づくりや地域スポーツの振興、施設や環境の整備などを実行し、住民の幸せと健康を願う“健幸都市”づくりをしていくものです。一方でアウター政策とは、域外交流型の政策、つまりその地域外の人を呼び込むものです。例えばスポーツイベントや合宿などによって外の人を呼び込み、経済効果が生まれることを期待します。

スポーツ都市の4つのコンセプト

 そもそも街づくりとは、「さらに良い生活が送れるように、道路や街並み、景観といったハード部分と、歴史文化、芸術、スポーツ等のソフト両面から改善を図ろうとするプロセス」です。つまり、その地域が元来持っているハードとソフトを活用して、地域振興をするということです。

 スポーツ×まちづくりという観点で見てみると、「持続可能性」「交流人口」「健康志向」「モビリティ」という4つの基本コンセプトがあります。このコンセプトに則って、例えば地域資源を生かした小規模なスポーツイベントを持続的に開催していくことでスポーツツーリズムを成立させ、交流人口を拡大する。

 また競技だけがスポーツではありませんから、いつもより少し歩く、健康教室に参加して汗を流すといった、ちょっとした行動変容を起こす工夫をすることで、住民の健康志向の高まりを促します。さらに、モビリティのあり方も見直す必要があります。移動するのが簡単で楽しいコンパクトな都市を作ることは、アクティブなライフスタイルにつながっていきます。

 こうしたスポーツ都市戦略は、個人や民間だけで作ることはできません。自治体が関与し、けん引していくことが重要です。ただ、日本ではスポーツ都市を成立させるにはまだまだ課題があります。例えば、2016年12月に自転車活用推進法というものが可決されました。この中で「自転車専用道路やシェアサイクル施設の整備を推進する」という一文がありますが、現在、全国の一般道路126万6000kmのうち、実際に歩行者と構造分離された自転車の通行空間は1800kmほどしかありません。国土の狭い日本において、今後どのように道路を整備していくかということは、課題の1つです。

スポーツ都市を構成する4つのコンセプト
スポーツ都市を構成する4つのコンセプト
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