アウター政策のカギ握るスポーツコミッション

 一方のアウター政策は、スポーツ・ヘルス商品と「スポーツコミッション」による交流人口の増大を目指すものです。この政策の流れはシンプルなもので、地域住民が自治体に税金を支払い、自治体はスポーツやヘルス事業に投資します。そうすることで域外ビジターの訪問が増大し、同時に地域に消費誘導効果が生まれ、地域の収入や雇用が増えていきます。そうなると、移住促進や観光促進、地域活性化の誘発など、イノベーションが誘発されていくことになります。このサイクルを描くことがアウター政策です。

 シンプルとは言ったものの、じゃあ税金に頼って投資をどんどんしていけばいいというわけではありません。その地域が持つ資産を最大活用し、旅行商品を作らなくては、域外ビジターは訪問してくれません。そこで今、多くの地域で設立されているのがスポーツコミッションという組織です。

 これは「スポーツツーリズムによって地域の交流人口増と、経済社会効果を最大化することを目的に設置される、スポーツイベントの誘致開催を主たる業務とするスポーツ・アウター政策の司令塔」といえる組織です。スポーツ庁の「第2期スポーツ基本計画」では、2017年〜2021年までの5年間で全国に170のスポーツコミッションを設置予定と記載されていますが、既に地域で活動し、イノベーションを起こしているスポーツコミッションも存在します。

 例えば埼玉県さいたま市のさいたまスポーツコミッションでは、そこが媒介となって、競技団体やイベントのライツホルダーと地域を結び付ける役割を担い、様々なスポーツイベントを誘致しています。代表的なイベントが、世界最高峰のサイクルロードレース「ツール・ド・フランス」と共催した「ツール・ド・フランス さいたまクリテリウム」でしょう。

 ツール・ド・フランスで2度の総合優勝を果たしたクリストファー・フルーム選手など、超有名選手が来日して話題にもなるレースです。2016年の大会では10.1万人が来場し、約29億900万円の経済波及効果を生みました。

 今後日本のスポーツ・ヘルスツーリズムが発展していくためには、こうしたスポーツコミッションの働きが大きなカギを握っています。

アウター政策による地域活性化の流れを表した図。構造はシンプルだが、いかに地域資産の最大活用ができるかが肝要と原田氏
アウター政策による地域活性化の流れを表した図。構造はシンプルだが、いかに地域資産の最大活用ができるかが肝要と原田氏
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拡大に寄与する「ヘルスツーリズム認証制度」

 地域の自治体やスポーツコミッションだけではなく、政府もまたスポーツ・ヘルスツーリズムに関与するようになってきました。2017年にスタートした「ヘルスツーリズムの認証制度」です。経済産業省が主導するもので、私も座長として関わっています。

 この認証制度は、プログラムの充実度によって3つのレベルに分けています。レベル1は基本的な要素を兼ね備えたもので、日本のヘルスツーリズム振興の基盤となるものを指します。レベル2は専門家も巻き込み、より高い効果の実感、参加者の満足度が得られ、地域に根ざした特色のあるプログラムです。そしてレベル3は、医療的なエビデンスに基づいて、本当に健康に貢献することがわかるものであり、かつ他の地域にとっての好事例となるようなプログラムです。

 認証制度の導入は、ツーリストにとっては健康増進体験の選択肢の増加や、商品の比較検討の際に役立ちます。一方、事業者側(=地域側)にとっては品質向上の手がかりにできますし、またスタッフの意識向上とモチベーションアップ、集客の拡大といったメリットを得ることもできます。