スポーツ産業成長への重要なカギを握っているのが、「スポーツ・ヘルスツーリズム」の活用だ。スポーツ・ヘルスツーリズムは地域にイノベーションを起こし、それによって経済効果を生み出す。その現状とは。そして今後どのようにスポーツ産業の発展に寄与していくのか。3月8〜10日に開催されたイベント「ヘルスケア&スポーツ 街づくりEXPO2017」(主催:日本経済新聞社、日経BP社)に早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授の原田宗彦氏が登壇し、「スポーツ・ヘルスツーリズムによる地域イノベーション」について語った。その模様を前後編に分け、談話形式でお伝えする。
講演を行った早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授の原田宗彦氏
講演を行った早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授の原田宗彦氏
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 「旅」と「観光」という言葉は混同して使われることがありますが、実は少し違います。旅は徘徊的で、困難や危険が伴い、寂寥感や徒労感といった暗いイメージが伴うものです。

 一方で観光は、出発地から観光地を周遊し、最終的にまた出発地に戻るという回帰的な活動です。最近だと、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディア(SNS)で見た景色を実際に見に行ってみたい、体験してみたいというきっかけから始まることもあります。“予定調和の旅”といえるものです。今回のテーマである「スポーツ・ヘルスツーリズム」は後者に当たります。

 そもそも、スポーツ・ヘルスツーリズムとは何か。私はこれを「予定調和性と回帰性というツーリズムの基本的な特徴を持つ時間消費型レジャー」「健康な人をより健康にするために、スポーツ・運動・食・自然体験・美容などを組み合わせた楽しい観光体験活動を実践する仕組みや考え方」と定義しています。今、このスポーツ・ヘルスツーリズムが1つのマーケットになってきています。

 ツーリズムでは、消費者の興味・関心を含む消費行動の理解が集積した「市場」があり、その市場に対する「旅行商品」を作ります。消費者はこの旅行商品を体験するために「目的地」まで移動します。この目的地を「マーケティング」で販売します。

 この4つのステップの中で特に重要なのが「地域主導型の商品開発」と「地域のマーケティング能力」です。地域が主体性を持って自分たちの地域にある宝物を発掘し、ストーリーを作り、商品化していく。もちろん商品化するだけでは売れませんから、それをマーケティングして、地域の外に向けて発信をしていくことも必要です。

 日本の各地域を見てみると、素晴らしい宝物がありながらそれを商品化できない、あるいは商品化しながらもマーケティングできず、無駄にしてしまっている状況をよく見ます。従って「商品開発」と「マーケティング」という2つが、これからの課題だといえるでしょう。

ツーリズムマーケットの図解。4つのステップの中で重要なものは「地域主導型の商品開発」と「地域のマーケティング能力」であると原田氏
ツーリズムマーケットの図解。4つのステップの中で重要なものは「地域主導型の商品開発」と「地域のマーケティング能力」であると原田氏
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ヘルスツーリズムとスポーツツーリズムの違い

 ヘルスツーリズムとスポーツツーリズムは、非常に似ているものですが、少し違いがあります。端的に言うと、前者は「病気でない状態」を「健康にする」ツーリズムで、後者は「既に健康な人」を「さらに健康にする」ツーリズムです。

 より詳しく見てみると、ヘルスツーリズムは非競争的で、あまり活動的ではないツーリズム。例えば、スパツーリズムや健康志向目的、フィットネス目的の旅行です。スポーツツーリズムは競争的なツーリズムであり、その中には活動的ではないものもあります。例えば、スポーツ観戦を目的とした旅行です。もちろん活動的なスポーツツーリズムも存在しており、例えば、外洋ヨットレースなどがそれに当たります。