日本スポーツ界には「スポーツビジネスに長けた経営人材」や「国際組織のリーダーとなり得る人材」の不足という課題がある。これを解消するために、今、様々な組織や団体で人材育成の取り組みが推進されている。そこでは、どのような人材が育成されているのか、そしてスポーツの現場ではどのような人材が求められているのか。2016年12月に開催された「スポーツ×経営×人材 世界のスポーツビジネスを仕事にする」(主催:日経BP社、協力:TIASアソシエーション)に、Jリーグチェマンの村井満氏、日本オリンピック委員会(JOC)理事の大塚眞一郎氏が登壇し、プロスポーツリーグ、そして競技団体が取り組む人材育成、求める人材像について語った。後編では、村井、大塚両氏と、筑波大学大学院 人間総合科学研究科の髙橋義雄准教授のパネルディスカッションから見えてきた、スポーツビジネス人材育成の抱える課題と、これからの道筋についてレポートをする。
(写真:加藤 康)
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リーグ経営を悩ませる業務の属人化

 前編で紹介したように、JリーグはJリーグヒューマンキャピタル(JHC)やスポーツヒューマンキャピタル(SHC)を通してスポーツビジネスの経営手腕を持った人材を、JOCは国際人養成アカデミーを通して世界に通用する人材を育成している。これらの受講生の中からは実際にプロスポーツクラブや国際競技連盟(International Federations/IF)に就職する人材も輩出するなど、それぞれの取り組みは既に一定の成果を出している。だがその一方で課題もある。それは人材を有効的に組織に登用できていないということだ。

「Jリーグの各クラブは、平均すると1クラブ60人ほどの人材を抱えています。指導者やコーチなどの現場の人間を除くと、フロントで働いているのはだいたい30人ほどで、小所帯な組織です。そのような規模の組織の場合、簡単にジョブローテションはできず、広報一筋何十年、営業一筋何十年というように、業務が属人化していってしまう傾向があります。属人化が進むと、経営者もその担当者の言うことを聞かざるを得なくなってしまう」(村井氏)

「これまでJOCや国内競技連盟(National Federation/NF)が新卒採用する際、人づてによる採用が主流でした。中途採用ではスポンサー企業や旅行代理店など、関係企業から転職してきた人もいますが、人材のトランスファーや競争をした上で入ってくるという流れはまだできていないという現状があります」(大塚氏)

大塚 眞一郎(おおつか・しんいちろう)氏。日本トライアスロン連合 専務理事/国際トライアスロン連合(ITU) 副会長/日本オリンピック委員会 理事。東京都出身。1984年からトライアスロン競技の日本への導入を行い、独自のマーケティングプログラムの開発により、日本国内での普及発展に尽力。ITUでは、オリンピック競技へのIOCロビイング活動を経て、1994年IOCパリ総会で2000年のシドニーオリンピックから正式競技採択に貢献。JOCリオデジャネイロ・オリンピック日本選手団役員、JOC事業専門部会長・広報副部会長・国際人養成アカデミースクールマスターなどを歴任(写真:加藤 康)
大塚 眞一郎(おおつか・しんいちろう)氏。日本トライアスロン連合 専務理事/国際トライアスロン連合(ITU) 副会長/日本オリンピック委員会 理事。東京都出身。1984年からトライアスロン競技の日本への導入を行い、独自のマーケティングプログラムの開発により、日本国内での普及発展に尽力。ITUでは、オリンピック競技へのIOCロビイング活動を経て、1994年IOCパリ総会で2000年のシドニーオリンピックから正式競技採択に貢献。JOCリオデジャネイロ・オリンピック日本選手団役員、JOC事業専門部会長・広報副部会長・国際人養成アカデミースクールマスターなどを歴任(写真:加藤 康)
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