2017年3月1日にスポーツ庁長官の諮問機関であるスポーツ審議会から鈴木大地長官に答申された「第2期スポーツ基本計画」では、スポーツ参画人口を拡大することによって「一億総スポーツ社会」を実現するという目標が掲げられた。2017年3月8~10日に開催された「ヘルスケア&スポーツ 街づくりEXPO2017」(主催:日本経済新聞社、日経BP社)に、スポーツ庁長官の鈴木大地氏が登壇。一億総スポーツ社会が実現することでどのような効果があるのか、実現のために取り組むべきことは何かについて語った。講演の要旨の後編を談話形式でお届けする。

産業拡大のキーとなる「スタジアム・アリーナ改革」

「ヘルスケア&スポーツ街づくりEXPO2017」でオープニングスピーチを行ったスポーツ庁長官の鈴木大地氏
「ヘルスケア&スポーツ街づくりEXPO2017」でオープニングスピーチを行ったスポーツ庁長官の鈴木大地氏
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 第2期スポーツ基本計画では、現在5.5兆円規模のスポーツ産業を、2025年までに15兆円にまで拡大することも大きな目標として定めています。市場規模の拡大によってスポーツを取り巻く環境を充実させ、それによってさらにスポーツ人口は増えていきます。そうすれば、またスポーツ市場も成長する。こうした好循環を作りたいと思っています。

 スポーツ産業の拡大を図るために、スポーツ庁では経済産業省と連携し、「スポーツ未来開拓会議」を開催しています。この会議で、スポーツ産業の拡大にはどのようなことが必要になるかを議論していますが、その中の1つに「スタジアム・アリーナ改革」があります。スポーツ参画人口を増やすには、スポーツを「みる」人を増やすことが必要です。それを実現するにはスポーツ観戦に伴う顧客経験価値を向上させることがキーとなるので、スタジアム・アリーナの在り方を改めて見直し、またスタジアム・アリーナを核とした街づくりを推進するのが不可欠です。

 スタジアム・アリーナの在り方を検討するために、「スタジアム・アリーナ推進 官民連携協議会」を開催しています。プロスポーツリーグのチェアマンや自治体の首長など、錚々たるメンバーに参加していただき、資金調達の方法や、スタジアム・アリーナの公共的価値を最大化させるためにはどうしたらいいか、について議論しています。

スタジアム・アリーナが変われば経済・地域も変わる

 実際、米国や欧州ではスポーツ施設を核とした街づくりが以前から行われています。例えば米国のコロラド州では、1990年代に雰囲気がよくなかった地区に野球のスタジアムを造ったところ、人の流れが変わり、街が再生しました。欧州でも、複合型のサッカースタジアムを造るにあたり、ショッピングセンターやホテル、オフィスなどを併設し、サッカー以外の利用を拡大することで、スタジアム・アリーナへの大規模投資を実現し、地域活性化へとつなげています。

スタジアム・アリーナを核とした街づくりを推進することで、経済効果を生み出し、地域活性化を図りたいと鈴木氏(図:スポーツ庁)
スタジアム・アリーナを核とした街づくりを推進することで、経済効果を生み出し、地域活性化を図りたいと鈴木氏(図:スポーツ庁)
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 このような例は日本にもあります。Jリーグの鹿島アントラーズのホームスタジアムであるカシマスタジアムは、スタジアムの隣にスポーツクリニックがあります。そこには地域の高齢者の方だけではなく、選手たちも通います。これは私の印象ですが、選手たちが通うようになると病院の雰囲気が変わり、なんとなく患者さんたちもポジティブになっていくんですね。私も実際にカシマスタジアムとクリニックを訪れ、病院とスタジアムの相性はよいと感じました。

 2016年にプロ野球のセ・リーグチャンピオンとなった広島カープのホームスタジアム、MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島では、マンションや結婚式業など、商業や住宅の一体開発が行われていますし、スタジアム内も様々な工夫を凝らした設計をしているので、行くだけでも楽しい空間になっています。

 ここでは、バーベキューをしながら野球の試合が観戦できたり、合コンをしながら観戦できたりするといった施策も行われており、野球に詳しくない人でも楽しめるようになっています。そうやって大勢の観客で賑わうと、選手たちもモチベーションが上がります。2016年の広島カープの躍進は、こうした効果もあったのではないでしょうか。