現代社会における様々な課題を「システム」の観点から読み解き、その解決方法を編み出すための研究をしている慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科(以下、慶應SDM)。この慶應SDMはスポーツ領域における様々な取り組みを実践しており、2017年度からは「KEIO SDM Sports X Leaders Program(以下、Sports X Leaders Program)」という、スポーツビジネス人材育成のためのプログラムを展開している。同プログラムはスポーツビジネスに何をもたらすものなのか。2019年2月に開催されたSports X Leaders Programの報告会から、彼らが目指すものを読み解いていく。
慶應SDMがスポーツ経営人材を育成する理由
2025年までにスポーツ産業の市場規模を15.2兆円にまで拡大することを目指している日本。「スタジアム・アリーナ改革」や「スポーツテック」の拡大などがその鍵として注目されているが、これらと同等に急務となっているのが、スポーツビジネスの経営人材の育成だ。
かつて日本のスポーツ界は、各競技の出身者がそのまま経営者になる、あるいはクラブの親会社から出向してきた人物が経営者になるという形が主流であったため、ビジネス的な観点や知見が欠如していたり、スポーツに対する理解が足りないまま事業を展開しているケースも多くあった。それがスポーツビジネスの成長の鈍化につながっていたのである。
しかし昨今、プロ野球(NPB)やJリーグ、Bリーグなどの競技では他業界でビジネス経験を積んだ経営者も数多く誕生している。また、スポーツ庁による「スポーツ経営人材プラットフォーム」に代表されるようなスポーツ経営人材育成の取り組みが推し進められている。この「Sports X Leaders Program」も、そうしたスポーツ人材育成プログラムのひとつだ。スポーツビジネスを専門にしているわけではない慶應SDMが、なぜこうした取り組みを始めることになったのか。本プログラムの主催者のひとりである慶應SDM 特任講師・富田欣和氏は次のように話す。
「数年前、このプログラムのもうひとりの主催者である橋口寛とともに北米最大のスポーツアナリティクスカンファレンスである『MIT Sloan Sports Analytics Conference(MIT SSAC)』を訪れた際、その規模の大きさ、質の高さ、カンファレンスの厚みに大きな衝撃を受けました。一方日本のスポーツ環境は構造的な課題を抱えているため、社会への価値創出を十分に果たせていません。そこで日本でも、MIT SSACのような活動をしていかなくてはならないと感じましたし、北米との差を知ってしまった以上、自分たちでやるべきではないかと考えました」(富田氏)