古田氏は入団1年目にあまり試合に出られなかった。当時のエース投手からは「新人とは組めない」とも言われたという。しかし、試合に出て盗塁を阻止し始めてから、エースが信頼してくれるようになったという。

 盗塁を阻止するためには、ピッチャーがモーションに入ってから2塁手にボールが届くまでの合計時間を短縮する必要がある。一般に、プロ野球ではその時間は3.3秒程度と言われている。ピッチャーがモーションを開始してからボールがキャッチャーに届くまでに1.3秒以内、キャッチャーがそれを捕ってボールが2塁に到達するまでに2秒以内だ。

 「そこを0.1秒縮められれば、盗塁をどんどん阻止できるようになり、レギュラー選手になって1億円プレーヤーになれる」(古田氏)

 同氏は現役時代、それをずっと考え、至った結論が「正確に投げることだった」という。つまり、キャッチャーの送球がそれて内野手がランナーにタッチをすると0.15秒が余計にかかる。いくら肩が強くてもコントロールが悪いと無駄な時間を消費して時間を短縮できない。2塁へ送球する際にボールをうまく握れないことがあることも想定して、練習を重ねたという。「これを理解している人はプロ野球界にもあまりいない」(同氏)。

 サッカーなど他のスポーツでは、選手時代には華々しい活躍ができなくても名監督として評価されている指導者が多くいる。その代表が、英プレミアリーグ、マンチェスター・ユナイテッドのジョゼ・モウリーニョ監督だ。モウリーニョ氏はプロとして活躍した経験がなく、サッカー界でのキャリアのスタートは通訳である。

 本質を見極めてそれを言語化し、選手に的確に伝える――。名選手が引退後すぐに監督に就任することがいまだに多い日本のプロ野球界だが、モウリーニョ氏のような“異分子”が多く登場すれば、もっと面白くなるのかもしれない。