NTTドコモがスポーツ映像のライブ配信でソフトバンクに真っ向勝負を挑む。Jリーグの放映権を巨額で獲得した英パフォーム・グループと組み、「DAZN for docomo」を2017年2月15日に開始した。大手同士のタッグにより、数百万件規模と桁違いの顧客獲得を目指す。同分野ではソフトバンクが「スポナビライブ」で先行。実際には放映権の関係でスポーツやコンテンツごとにユーザーがすみ分けられ、両社のサービスが直接競合するケースは少ないが、可処分時間の奪い合いが激しくなりそうだ。

放映権の獲得競争と無縁

 DAZN for docomoの配信コンテンツは、サッカーや野球をはじめ、バレーボール、モータースポーツなど国内外の130種類以上、試合数は年間6000以上。NTTドコモの携帯電話ユーザーであれば月980円(税別)で視聴できるほか、映画やドラマの配信サービス「dTV」とのセットで合計額をさらに200円割り引くとした。

 NTTドコモが今回の提携で得たメリットは大きい。パフォーム・グループ自身は2016年8月に「DAZN」を月1750円で開始済み。DAZN for docomoは認証方法や料金請求などで細かな違いがあるものの、楽しめるコンテンツは基本的に同じである。それにもかかわらず、NTTドコモの携帯電話ユーザーというだけで月770円も安く提供することに成功した。

 スカパーJSATがJリーグの放映権を奪われる前に提供していた「JリーグMAX」(J1の全試合を視聴可能)の料金は月2962円(税込)。DAZN for docomoはJ1~J3のリーグ戦全試合や海外サッカー(ブンデスリーガやセリエAなど)をはじめ、他のスポーツも含めて月980円なので、いかに安いかが分かる。

写真●「DAZN for docomo」の発表会の様子。
写真●「DAZN for docomo」の発表会の様子。
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 2月8日の説明会では費用負担に関する質問が相次いだ。NTTドコモの吉澤和弘社長は条件の詳細を話せないとしつつも、「(DAZNとNTTドコモで)月980円をレベニューシェアしており、差額(月770円)を負担しているわけではない」とした。しかも携帯電話事業者として排他的契約になっている。利幅は相当に薄いとみられるが、月770円の料金差があれば、他社の携帯電話ユーザーの取り込みにつながるかもしれない。携帯電話大手3社の料金やサービスが同質化する中、今回の提携の意義は大きいと言える。

 NTTドコモのメリットは上記にとどまらない。スポーツの映像配信には放映権の獲得競争がつきもの。パフォーム・グループが2016年7月にJリーグと締結した放映権契約は、2017年からの10年間で約2100億円。NTTドコモが放映権の獲得費用の一部負担を求められても不思議ではないが、「コンテンツの費用負担は基本的にない」(NTTドコモ幹部)という。つまり、高騰する放映権の獲得競争に巻き込まれる心配がないわけだ。

 かたや、ソフトバンクの「スポナビライブ」はどうか。2016年9月に開幕した男子プロバスケットボール新リーグ「B.LEAGUE」の最上位スポンサーとして全試合のネット配信を手掛けるが、契約費は4年間で推定125億円とされる。プレミアリーグやリーガ・エスパニョーラなどのネット配信も手掛け、「結構な額の投資になる。このため、配信サービスの収益だけでは事業を見ていない」(ソフトバンク幹部)という。

 なお、DAZNは広告なしの購読モデルで利用料は年2万1000円(月1750円×12回)。100万契約を獲得すれば年間収入は210億円(年初に一斉加入した場合)となり、Jリーグに支払う放映権(2100億円を10年で分割)にようやく肩を並べることになる。放映権は他のスポーツでも相応の費用を投じているとみられ、システムの運用や番組の制作・編集(日本語化を含む)などの費用もかかる。日本市場だけで採算を考える必要はないとしても、最低数百万件は獲得したいところではないか。NTTドコモが月980円で提供するとなればなおさらだ。