2018年11月11日。中国で「独身の日」と呼ばれるこの日は、毎年、電子商取引(EC)サイトで大々的なセールが行われる。今年で10回目を迎えた独身の日、中国最大のECサイトを運営するアリババ集団(阿里巴巴)は、1日で2135億元(1元=16円で3兆4000億円)の売上を記録した。この数字は、日本企業の“年間”売上ランキング(2017年)に照らし合わせてみると30位台という驚異的な数字だ。10年前の独身の日の売上は、わずか5000元だった。

 この中国IT業界の“巨人”アリババ集団がスポーツ事業に力を入れている。参入したのは2015年ごろだが、「既に1500億円を投じている」とアリババ集団のスポーツ部門、 アリスポーツ(Alisports:阿里体育) CMO(Chief Marketing Officer)の王一鳴氏は言う。

始まりは2014年の「Double-H」戦略

アリスポーツ(Alisports:阿里体育) CMOの王一鳴氏。2018年11月29~30日に東京で開催されたスポーツビジネスイベント「Sport Innovation Summit(SiS)」に登壇した
アリスポーツ(Alisports:阿里体育) CMOの王一鳴氏。2018年11月29~30日に東京で開催されたスポーツビジネスイベント「Sport Innovation Summit(SiS)」に登壇した
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 スポーツビジネス界でアリババの名を世界に知らしめたのは、サッカークラブの世界一を決めるFIFA(国際サッカー連盟)クラブワールドカップ(FCWC)の2015年大会である。2005年から同大会の冠スポンサーを務めていたトヨタ自動車に代わり、2015年から2022年までの8大会でアリババが同スポンサーに就くことが発表されたのだ。

 2017年1月には、国際オリンピック委員会(IOC)とTOP(The Olympic Program)と呼ばれるワールドワイド・スポンサー契約を結んだ。契約期間は2028年まで。2018年11月には、欧州サッカー連盟(UEFA)と8年間のスポンサー契約を締結した。2020年および2024年の欧州選手権などをスポンサーする。

 提携は“リアルスポーツ”にとどまらない。アリスポーツはアジアオリンピック評議会(OCA)と戦略的な提携契約を結び、2022年に中国・杭州で開催されるアジア競技大会でのeスポーツの正式競技化に貢献した。

 このようにスポーツ界での投資や提携を加速しているアリババだが、一連の動きのきっかけは2014年に社内で会社の今後の発展や、中国でこの先10~20年に何が最も必要とされるのかを議論したことだったという。その結果、「Happiness and Health戦略として知られる『Double-H戦略』を打ち出した」(王氏)。

 中国でもスマートフォン(スマホ)が普及し、「ライフスタイル変革」の時代を迎えている。そうした中で、「コンテンツ」の重要度が増しており、人々の生活時間を確実に“奪える”スポーツは、自ずと戦略の柱の一つになった。アリババは2015年9月にアリスポーツを立ち上げ、FIFAとは3カ月に満たない短期間の交渉でクラブワールドカップの冠スポンサーになることを決めた。

 アリババが、オリンピックやクラブワールドカップを始め、国際的なスポーツイベントをスポンサーする狙いを、王氏はこう語る。「コンテンツの使用権などを獲得したり、ブランドイメージを高めるのはもちろんだが、やはり最大の目的はアリババが持つ先進的なテクノロジーを活用してスポーツ界にイノベーションを起こすことだ。創業者のジャック・マーは、単なるロゴの露出には興味がない。ECでショッピングにイノベーションを起こしたように、スポーツに新しい体験をもたらしたいと考えている」という。

 例えばアリババは、コンテンツのインターネット配信、いわゆるOTT(over the top)のプラットフォームを持っており、世界トップレベルのスポーツコンテンツを武器に、これまでのテレビ放送にない体験をもたらしたいとしている。