スポーツ庁が設置した「スポーツ未来開拓会議」は、2012年時点で5.5兆円だった日本のスポーツビジネス市場は2020年に10.9兆円、2025年に15.2兆円という規模に拡大する目標を掲げた。この数字を達成するためには、スポーツにまつわる各種産業の成長が必要であるが、中でも重要なのが、リーグやクラブを経営する人材、そしてそれを支える組織の成長だ。では実際に今、スポーツ界ではどのような人材や組織が求められているのか。2016年12月に開催された「スポーツ×経営×人材 世界のスポーツビジネスを仕事にする」(主催:日経BP社、協力:TIASアソシエーション)に、男子プロバスケットボール「B.LEAGUE」(以下、Bリーグ)のチェアマン 大河正明氏が登壇。「プロスポーツリーグのビジネス最前線と必要な人材とは」と題して、プロスポーツ経営の実情、そしてスポーツビジネス経営者に必要な要素について語った。今回は、その後編を談話形式でお届けする。
(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)
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「オープン」と「クローズド」、そのメリットとデメリット

 プロスポーツリーグには、クローズド型のリーグとオープン型のリーグがあります。例えば日本のプロ野球や、米国のプロスポーツの多くはクローズド型のリーグです。そのリーグに参加するクラブの数は限られており、昇格や降格もありません。このタイプは、昇降格にクラブの経営が左右されないので、投資家にとっては投資がしやすいという大きなメリットがあります。

 一方、オープン型のリーグは完全競争社会です。昇降格があるので、クラブの経営を安定させにくいというデメリットがあります。イングランドのプレミアリーグや、ドイツのブンデスリーガはオープン型を採用しています。BリーグもJリーグもオープン型です。

 実は、Bリーグは当初、クローズド型のリーグで運営をスタートした方がいいと思っていました。12くらいのクラブ数でスタートし、がっちりと経営を固める。その方が成功すると思っていたのです。しかし、蓋を開けてみると46ものクラブから参加申し込みがあり、B1とB2、さらにプロアマ混在のB3まで合わせると、34都道府県45のクラブが参加する、オープン型のリーグとしてスタートすることになりました。

 オープン型とクローズド型は、どちらの方が優れているというわけではなく、それぞれメリットとデメリットがあります。ただ、オープン型の場合、国全体にクラブを展開することができるので、スポーツを通した地域活性化や地域貢献に取り組みやすくなります。つまり、スポーツを産業化していくためには、このオープン型リーグが有効なのです。

 ちなみに、日本の国技である大相撲も、力士個人をクラブと捉えれば、ある意味でオープン型といえるかもしれません。成績が悪いと十両や幕下に落ちますし、それによって力士の収入も変わる。日本のプロスポーツの代表であるプロ野球はクローズド型ですが、もう1つの代表的なプロスポーツである大相撲はオープン型のリーグであるので、そう考えてみると、日本にはオープン型も合うのかなと考えました。

スポーツでサラリーを稼ぐために必要な「箱」

 こうして始まったBリーグには3つの使命があります。第1に「世界に通用する選手やチームの輩出」ということ。第2に「エンターテイメント性の追求」。第3に「夢のアリーナの実現」です。

 特に3番目の「夢のアリーナの実現」について話します。2016年9月の開幕戦は代々木第一体育館で開催しました。開幕戦は最大のプロモーションだと考え、日本最大級の吊り下げビジョンを特別に設置し、席を増設して、LEDコートを世界のプロスポーツで初めて公式戦で使いました。あえて演出に大きな金額を投じたわけです。正直なところ、この試合単体でいえば赤字です。でも、「夢のアリーナ」の姿を最初に提示するが、のちのちに大きな収入となって戻って来るきっかけになると考えました。

 しかし、代々木第一体育館であっても仮設で設置しなければコートに近い席はありませんし、吊り下げビジョンもありません。いわゆる、「体育館」なんです。地方によっては、わざわざスリッパに履き替えて観戦しなければならない会場も少なくありません。飲食の販売にも制限があって、試合を観ながらビールを飲むことができない会場もあります。

 スポーツが産業として栄え、スポーツ界で仕事をしてサラリーを稼ぎたい人を増やすためには、経営人材の育成も重要ですが、同時に、アリーナやスタジアムというスポーツを見るための「箱」の充実も必要だと、我々は考えています。