「日経ものづくり」2014年1月号の事故は語る「腕時計の漏電で皮膚障害が発生、低電圧でも人体へ影響あり」を分割して再公開した記事の後編です。前編はこちら

低電圧の刺激を確認

 次に検討されたのが電流による直接的な皮膚の損傷だ。電流による抵抗で皮膚の温度が上昇し、その熱で組織が破壊されたり、内部で発生した水蒸気で損傷したりといった電撃傷が知られている。

 しかし、ボタン電池の6Vという電圧は、例え指で触っても刺激を感じないほどの低さ。この電圧で電撃傷が発生するのか疑問があった。

 そこでNITEでは、ハムを使った実験を実施している(図5)。3Vのボタン電池を試験片に強く押し付け、負極(底面)と正極(底面の周囲)が同時に接する状態にする。この状態を1時間維持し、その後に電池を取り除いたところ、電池を押し付けてあった部分には損傷が認められた。

図5●微弱電流による皮膚への損傷試験
3Vのボタン電池をハムに押し当てることで通電状態(+、-の両方が接した状態)を再現。1時間後に電池を取り除くと、損傷が認められた。写真:NITE提供
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 特に、電池の正極と負極の境目である周辺部の損傷度合いが激しかった。ハムと人間の皮膚は全く同じではないが、3Vという低い電圧であってもタンパク質を損傷することが確認できたわけだ。NITEでは、「金属アレルギーよりも、こちらの方が原因だった可能性が高いだろう」と判断した。