6つのセルで安全弁開放

図2●バッテリーの構造
8つの角形セル(図中の1~8)を直列に接続してある。その他、充電制御ユニット(BMU)、コンタクター、ホール効果電流センサーなどから成る。
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 メインバッテリーは、仏Thales Avionics Electrical Systems社製。ジーエス・ユアサテクノロジー(本社京都府福知山市)製のコバルト酸Liを正極活物質とする捲回型LIBの角形セルを8つ内蔵しており、バスバーと呼ぶ部品でこれらを直列接続してある(図2)。

 各セル間は樹脂製のスペーサーで絶縁されており、さらにバッテリーの筐体(バッテリーケース)の形状維持とセルの固定のために中央にブレースバーと呼ぶステンレス鋼製の部品が設けられている。この他、過充電・過放電からの保護やセル電圧のバランス調整を行う「バッテリー監視ユニット」(BMU)、過充電時に充電器などからの回路を切り離すためのコンタクター、電流値を計測するホール効果電流センサー(HECS)などを内蔵。バッテリーケースは、セルやBMUなどの内部収納物とは絶縁されており、外部にアース線で接続されている。公称電圧は29.6Vで容量は75Ah、質量は28.5kgである。

 事故後のメインバッテリーは、バッテリーケースの蓋が膨らんで全てのセルに熱損傷が認められた(図3)。セル4とセル5を除く6つのセルでは、内圧が高まったときに圧力を開放する安全弁が開いて(ベントして)いた。さらに、バッテリーケースのアース線が溶断しており、BMUやコンタクター、HECSなどにも熱による損傷や変色が認められた。

図3●事故後のセル
8つのセル全てが熱損傷しており、6つのセルがベントしていた。アーク痕やバスバーの溶損も認められた(a)。セル3の正極のバスバーは溶解していた(b)。X線写真からはベントしていたセル1~3、6~8が膨らんでいるのが分かる(c)。(写真:国土交通省)
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 特に損傷がひどかったのは、互いに溶着していたセル3とセル6だ。セル3は正極集電体が全て溶断し、複数のアーク痕も認められた。正極端子付近が激しく損傷し、この部分のバスバーが消失していた。セル6も正極集電体が全て溶断し、ブレースバー側が大きく損傷して、ブレースバーの一部と溶着していた。

 各セルは外形も著しく変形していた。大きく膨らんでいたのはセル1とセル8で、次がセル2とセル7。セル3とセル6は、セル7と2に押されたように凹んでいた。先にベントしたセルは、隣接したセルが後からベントするとその圧力で凹む。このことから、最初にベントしたのはセル3またはセル6で、その後にセル2と7が、最後にセル1と8がベントしたと考えられた。一方、メインバッテリー周辺の充電制御ユニット(BCU)は、出荷前と同じ検査を行ったところ異常は認められなかった。

参考文献
1)運輸安全委員会,『航空重大インシデント調査報告書 全日本空輸株式会社所属ボーイング787-8型 JA804A 非常脱出スライド使用による非常脱出』,2014年9月25日.
2)吉田,「トラブル相次ぎついに運航停止の787」,『日経ものづくり』,2013年2月号,pp.19-20.
3)吉田,「B787の電池事故、発端は1セルの熱暴走か」,『日経ものづくり』,2013年3月号,p.21.