「日経ものづくり」2014年11月号の事故は語る「Boeing787のLiイオン2次電池過熱、内部短絡が引き金の熱暴走か」を分割して再公開した記事の前編です。

民間旅客機として、2次電池に初めてリチウム(Li)イオン2次電池(LIB)を採用したBoeing787型機。しかし、発煙や焼損などのトラブルが相次ぎ、一時は運行停止に陥った。事故調査の結果、2次電池を構成する8つのセルのうち1つが内部短絡によって発熱し、それが引き金となり全てのセルが熱暴走したことが分かってきた。

 2014年9月、国土交通省の運輸安全委員会が、四国上空で発生した2次電池事故に関する調査結果を発表した1)。調査報告書を基に事故の状況をみてみよう。

バッテリーの発煙で緊急着陸

 事故が発生したのは、2013年1月16日。同日8時27分ごろ、四国上空を羽田空港に向かって飛行していた全日本空輸(ANA)692便のBoeing787(以下、B787)型機の計器パネルに、前方電気室の2次電池の異常を示すランプが灯った。同時に機内に樹脂が焦げたような異臭が発生し、主電気室の煙センサーの警告ランプが点灯。15分ほど前に山口宇部空港を離陸したばかりの同機は、規定に従って8時47分に近くの高松空港に緊急着陸した(図1)2、3)

図1●高松空港に緊急着陸したANA692便のBoeing787型機
山口宇部空港を離陸して羽田空港に向かっていたが、メインバッテリーであるLiイオン2次電池から煙が上がって緊急着陸した。(写真:国土交通省)
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 緊急着陸後、乗務員を含めた137人の搭乗者は全員、非常脱出用シューターを使って機外に逃れた。シューターからの着地の際に乗客4人が軽傷を負ったものの、火災や爆発などには至らなかった。事故後に調べたところ、LIBを使った前方電気室の2次電池(メインバッテリー)が焼損していた*1

*1 B787型機では、2013年1月7日に米国ボストンのローガン空港で、駐機中の成田発ボストン行き日本航空(JAL)8便の機体後方にある電気室の補助動力用ユニット(APU)の2次電池(APUバッテリー)から発煙するというトラブルが発生している。2014年1月には、成田空港でメインバッテリーのセル5がベントするというトラブルも起こった。メインバッテリーとAPUバッテリーは同型で同じ構造をしている。