足利工業大学・牛山泉理事長(出所:日経BP)
足利工業大学・牛山泉理事長(出所:日経BP)

風力発電は、発電コストの低下が進み、かつて国内でも大型水力や地熱に続く、再生可能エネルギー導入の有望株とされていた。しかし、海外に比べ、日本では停滞気味で、固定価格買取制度(FIT)の下でも、太陽光に比べて普及速度は上がらない。大容量化によるコスト低下、海外製品の流入など、太陽光も風力と同じ道を辿っている。風力の挫折の軌跡から学ぶ点は多いはずだ。元日本風力エネルギー学会会長の足利工業大学・牛山泉理事長に、日本で風力発電が苦戦する背景を聞いた。

――世界的に風力発電が伸びる中、国内の風力発電は停滞しています。その背景をどうように見ていますか。

牛山 国内風力発電が伸びない理由に入る前に、日本には莫大なポテンシャル(導入可能量)のあることを、まず述べましょう。

ポテンシャルは2000GW

牛山 環境省が2011年に発表した国内風力発電のポテンシャルは、陸上風力3億kW(300GW),洋上風力16億kW(1600GW)で、合わせると54基が稼働していた当時の原発の総容量4800万kW(48GW)の40倍に達します。北海道の陸上風力だけでもポテンシャルは6500万kW(65GW)程度、これは北海道電力の持つ全発電設備容量の10倍強にもなります。

 世界の普及状況を見ると、昨年末に風力の全世界での導入容量は4億kW(400GW)を超え、初めて原発の設備容量を上回りました。もちろんこれは設備容量なので、設備利用率では、風力は原発の3分の1程度なので、実際の発電量でみれば、原発の3分の1になります。それでも、その存在感はかなり大きいといえます。

――国内にも巨大なポテンシャルがありながら、日本の風力発電の導入量は、現在、約300万kW(3GW)程度に留まっています。なぜ導入が進まないのでしょうか。

牛山 まず、日本には、風車より水車を活用してきた歴史があります。日本の年間降水量は約1800㎜に達します。欧州の平均は約1000㎜、地中海沿岸では500㎜程度に過ぎません。日本の半分から4分の1しか降りません。しかも、日本の7割は山地なので、川の流れが速い。酒造りでは水車でコメをひくなど、水の流れを上手に使ってきました。

 日本で風車が発達しなかったのは、すでに水車があったことに加え、台風がよく来るので、昔の未熟な技術で風車を作ると、強風で吹き飛ばされてしまう。一方、欧州には台風がなく、偏西風帯に位置するため、風が定常的に吹いています。

 日本では「風は気まぐれで役に立たない」という悪い先入観がある一方、欧州では「風は役に立つもの」と考え、積極的に活用する文化でした。オランダなどでは700年以上の風車利用の歴史があります。