企業がCXに取り組むメリットとは?

 CXは1999年、バーンド・H・シュミット氏(コロンビア大学ビジネススクール教授)が著書『経験価値マーケティング 消費者が「何か」を感じるプラスαの魅力』の中で「経験価値」という概念を提唱したことをきっかけに注目され始めた。

 約10年前から徐々に日本にも広まり、著名な企業でもCXの取り組みが始まった。こうした取り組みがメディアに取り上げられたことなどから、2010年頃から急速に広まりだしている。

 2013年、18カ国1342人の企業経営幹部を対象とした調査結果によれば、CX不足が原因で競合他社に乗り換えた顧客の割合は89%にのぼることが判明している。一方で、CX不足が原因で競合他社に乗り換えることを認識している幹部は49%にとどまった(日本オラクル社発表の「カスタマー・エクスペリエンスに関するグローバルの調査報告書」より)。

 コンサルティング会社である米Bain & Company ロンドンオフィスパートナーのジェームス・アレン氏も、「企業の80%が優れたCXを顧客に提供していると考えている一方で、顧客の8%しか優れたCXを体験できていない」と認識の齟齬を指摘する。

 2015年に21カ国516人の経営幹部を対象に実施されたCXの重要性に関する調査では、今後の投資の優先順位においてCXを重視すると回答した経営幹部の64%が競合他社よりも高い利益を得ていると回答している。さらに同調査では、経営幹部の61%がCXに投資するメリットは「顧客の維持」「売上増加」だと考えている(『The Economist』のインテリジェンス・ユニット調査より)。

 また、CXの向上に全社を挙げて取り組んでいるOracle社のデイビッド・バップ氏は「前向きなCXを提供する努力を怠った場合、企業が失う平均的な年間収入額は売上の20%にも達する」と主張する。

 CXを軽視すれば企業側にはデメリットが生じ、取り組むことでメリットがもたらされる――。企業がCX向上に取り組む意義は明快だ。

 それでは、実際にCXに取り組む企業では具体的にどのような戦略に基づきCX向上に取り組んでいるのだろうか。次回はCXの向上に取り組むグローバル企業の事例を紹介する。