日経Automotiveのメカニズム基礎解説「第15回:CVT(無段変速機)」の転載記事となります。

変速時に駆動力が途切れず、連続的な変速を実現できるCVT(無段変速機)。変速比幅(減速比の上限/下限)を大きくしやすいため、巡航時の燃費性能に優れる特徴がある。MT(手動変速機)やAT(自動変速機)との差異化を狙った進化の方向性も見えてきた。

 CVTは、変速操作を連続的に実現することを目指した変速機構である。一般的なCVTはベルト式と呼ばれるもので、プーリーとベルトから成る。ベルトの巻きかけ半径を変化させることにより、減速比を変える仕組みだ。ベルトがかかる位置は、プーリーの幅を変化させることで変えられる。

 CVTの発想自体は古く、20世紀の初頭には現在と同様の機構となる無段変速機が開発されている。だが、ベルトがゴム製だったため小型自動車やスクーター用の変速機として利用されるに留まっていた。その後、金属コマをスチールベルトで束ねたベルトが1970年代に考案され、高出力な乗用車にも搭載が可能になった。

CVTならではの滑らかさ

 CVTを含む変速機は、エンジンの駆動力や回転数を効率的に変換することで燃費性能を改善する効果を得られる。

エンジンから伝えられる回転数を変化させることは、トルクを増減することになる。負荷の大きさに合わせてトルクを増減することで、損失の少ない走行を実現するわけだ。

 往復機関であるレシプロエンジンには、燃焼効率の高い回転数域が存在する。その領域に速度域を合わせるのも変速機の役割の一つだ。低負荷時にはできるだけ回転数を下げて燃費を改善する。

 変速機には、構造から見て大きく3種類ある(表1)。今回解説するCVTと、MTおよびATだ。

表1 MTとAT、CVTの比較
表1 MTとAT、CVTの比較
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 一般に変速機は歯車機構を用いており、噛み合わせる歯車の組み合わせによって減速比が決まってくる。MTは、1対の歯車の組み合わせを段ごとに変更することで変速する。変速時の損失が少ない一方で、操作のスムーズさは運転者の技量に大きく左右される。

 ATは、遊星歯車機構を設けて電子制御することで、スムーズな加速と高速巡航時などの低回転化の両立を図ったものである。電子制御による滑らかな走りとロックアップクラッチや多段化で効率を高めたことから、ステップ式ATは変速機の主流となった。進化の方向性としては、ステップ比を大きくしすぎず変速段数を増やして変速比のワイドレンジ化を図っている。

 これらに対してCVTは、1対のプーリーに金属ベルトを渡し、減速比を連続的に変化させる(図1)。この方式のメリットはまず、構造がシンプルで軽量なことが挙げられる。変速時に駆動力が途切れない滑らかな変速を実現できることも大きい。さらに、変速比幅(減速比の上限/下限)を大きくしやすいため、巡航時の燃費性能に優れる。

図1 金属ベルトを用いたCVTの例
図1 金属ベルトを用いたCVTの例
アイシン・エイ・ダブリュのCVT。ベルトは金属板から打ち抜かれたコマを数百枚重ね、両側から薄い鋼板の輪を重ねたもので挟む。プーリーはドライブ側の幅を油圧で変化させることで、ベルトに引っ張られる形でドリブン側のプーリー幅が変化する。
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