日経Automotiveのメカニズム基礎解説「第7回:ESC(横滑り防止装置) 4輪のブレーキを個別に制御、車両を安定させる」の転載記事となります。

 具体的にESCはどのようなメカニズムで作動しているのか。走行中のECUは、4輪の角度、ステアリングホイールの操舵角、車両のヨーレート、横方向の加速度を、各センサーで検知している(図3)。

図3 ESCのシステム構成
各車輪にはブレーキの油圧系統のほか、車輪の回転数を測定する車輪速センサーが装着されている。ステアリング舵角センサー、車体中央のヨーレート(回転角速度)センサーや加速度センサーなどから、運転者の操舵の意志、道路の形状、クルマの走行状態を判断する。クルマが制御を失う恐れがある場合には、エンジンのECUと協調制御させてスロットルバルブを閉じてエンジンの出力を抑制するほか、各車輪のブレーキを作動させて、安定性を取り戻す。
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 センサーは1秒間に100~1000回という速度で演算し、ECUに信号を送る。そしてECUは1秒間に25回は、走行状態を判定している。車両の挙動が適正なしきい値を超えたと判断すれば、エンジンの出力と4輪のブレーキを独立して制御することで、車体の姿勢を安定させる。

 ステアリングを切ってもヨーレートは小さいという状況では、車体が向きを変えにくいアンダーステアが発生していると判断する。この場合、コーナー内側の車輪にだけブレーキをかけると同時にエンジンの出力も抑える(図4)。

図4 ESCで車体を安定させる様子
左は、車両の旋回力が不足しているアンダーステアが発生している状態。対策として、ESCのユニットで左後輪の油圧を高めて、左回りの旋回モーメントを発生させている。右は旋回力が大きすぎるオーバーステアの状態。スピンする前に、ESCユニットで右前輪に制動をかけることにより右回りの旋回モーメントを発生させてスピンを回避させる。
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 またステアリングの舵角は一定であるにもかかわらず、旋回方向の加速度が高まっていく状況は、車体が曲がり過ぎるオーバーステアと判断し、コーナー外側の車輪にブレーキをかけると同時にやはりエンジン出力を制限する。ステアリングを操作することなく、ブレーキを独立制御してクルマの向きを制御するのである。

 ブレーキによる方向の修正は、効果の高い前後輪のどちらかを主体に行なう。しかしそれで不十分と判断すれば、残る同じ側の前後輪、さらには両方の後輪で制動力に差を付けることでステアリングの利きと制動力を同時に高めることもある(図5)。

図5 ESCの制御の流れ
アンダーステアやオーバーステアの発生時にESCを作動させる。実際には、自動車メーカーに応じて、どの車輪を制動するのか、いくつの車輪に制動をかけるのかは変わってくる。
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 運転者の意思とは関係なく、車両を安定化するようになったのは、TCSに次ぐものだが、TCSがアクセルの踏み過ぎや滑りやすい路面での操作に対する受動的な制御であるのに対して、ESCは運転者の操作を修正するものだけではない。クルマの挙動を予測し、挙動が不安定にならないように制御する。ABSやTCSが運転者の入力に応える単一の機能であるのに対して、ESCは運転者の運転操作とは別の制御により、アンダーステアによる車線外へのはみ出しや、オーバーステアによるスピン状態を回避してくれるのだ。