日経Automotiveのメカニズム基礎解説「第5回:直噴ガソリンエンジン インジェクターを燃焼室に配置、熱効率高めて燃費性能向上」の転載記事となります。

 一般的な直噴ガソリンエンジンの噴射パターンは、インジェクターから、燃焼室全体に混合気が広がるように放射状に、燃料を噴射する。それに対し、最初に点火プラグの周囲に濃い混合気を留まらせることで、周囲の薄い混合気と成層燃焼を実現するのがスプレーガイド式である(図7、図8)。

図7 直噴の希薄燃焼エンジン(Daimler社メルセデス・ベンツ)
ピエゾ式インジェクターを採用し、点火プラグ周辺に濃い混合気を生成することで成層燃焼を実現する。ピストン頭頂部にくぼみを設けることで、圧縮時に濃い混合気を留まらせるとともに、頭頂部の周囲を高くして高圧縮を実現する。
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図8 直噴の希薄燃焼エンジンのイメージ
希薄燃焼であるスプレーガイド式直噴エンジンは、早めに燃料を少量噴射して全体に薄い混合気を生成し、点火の直前に再度噴射することでプラグ周辺に濃い混合気を置いて燃焼しやすい状況を作る。これによって従来のポート噴射と比べ、15%の燃費向上効果があるといわれる。
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 これは高反応なピエゾ式インジェクターによって実現できたもので、ドイツDaimler社メルセデス・ベンツブランドやドイツBMW社が採用している。

 また直噴は、ターボチャージャーとも相性が良い。燃料による冷却効果を使えるため、ターボ車の燃費を向上できる。さらにダウンサイジングターボと併用することにより、高負荷時に燃費が悪化するというターボのデメリットを解消しながら、低負荷時にはさらに低燃費を追求することができる(図9)。ドイツVolkswagen社のダウンサイジングターボエンジンは、まさに直噴のこうした利点を利用したものだ。

図9 連続可変バルブリフト機構と組み合わせた直噴ターボエンジン(BMW社)
BMW社は初期の直噴ターボでは、連続可変バルブリフト機構のバルブトロニックとの併用を諦め、ピエゾ式インジェクターで緻密に燃料を制御した。2代目となる現行品ではターボを従来の2基からツインスクロール式の1基としたほか、小型なソレノイド式インジェクターと可変バルブリフト機構を組み合わせることで、コストダウンと低燃費を両立させた。
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