日経Automotiveのメカニズム基礎解説「第16回:ステップAT(自動変速機) 遊星歯車機構で変速、多段化と効率向上進む」の転載記事となります。

 ステップATのメリットは、遊星歯車機構を使うことで、変速の制御機構を簡素化できること(図2)。さらに遊星歯車機構により変速後の駆動力を再び後列の遊星歯車機構に入力する直列構造とすることで、乗数的に変速段数を増やせることだ。いわば変速機の後に追加する副変速機のような働きをさせているのである(実際の多段ATは、クラッチの締結の組み合せを複雑に変えることでステップ比の小さい変速を実現している)。

図2 ドイツDaimler社の9速AT「9G-TRONIC」
図2 ドイツDaimler社の9速AT「9G-TRONIC」
六つのクラッチで、四つの遊星歯車機構を切り替え、9段の変速を実現する。アイドリングストップ用に電動オイルポンプを備えるほか、オイルポンプをチェーン駆動としてオフセットすることにより大容量としている。
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 2000年代に入って乗用車のATは多段化が急速に進んだ。長い間、3速+オーバードライブの「4速AT」が主流だったが「5速AT」を経て「6速AT」へと発展してきた。

 今では6速以上のATが一般的となり、国産の中型車以下のクラスではCVTを採用するケースも多い。前述した通り、車体側で転がり抵抗や空気抵抗の軽減も図ったことで、高速巡航時のエンジン回転数を下げて燃費改善を図ることが可能となっている。これによりCVTの普及やATの多段化が急速に進んだ。現在ステップATは10速まで登場しており、今後もさらに多段化していく傾向にある。

 多段化の目的はいうまでもなく、変速比幅の拡大にある。CVTがプーリーの後ろに副変速機を備えて、大きな変速幅をより拡大しつつあるように、ステップATは多段化によって変速比幅を拡大させており、今やCVT以上の変速比幅を誇る。

 DCTのようにMTをベースとしたAMTの場合、変速操作の際に歯車の噛み合いを変えるには、クラッチを切ってトルクを断絶し、フリーとなった状態で物理的にスリーブを動かし噛み合わせる必要がある。一方、遊星歯車機構の場合は多板クラッチへの油圧を切り替えるだけで変速が実現することだ。遊星歯車機構や油圧を制御するバルブボディーなどの設計や開発は複雑化するものの、変速機構の可動部は簡単な機構で済む。