日経BP社は2017年6月13日、書籍「GE 巨人の復活 シリコンバレー式『デジタル製造業』への挑戦」を上梓した。著者は中田 敦 日経BPシリコンバレー支局長。同書で中田支局長は、世界最大の重電メーカーである米ゼネラル・エレクトリック(GE)が成し遂げたデジタル化、シリコンバレー化改革の正体を解説している。GEのデジタル改革リポート第3弾は、厳格な成果主義から一変。失敗を許容し、チームワーク重視に変わったGEの人事評価制度を取りあげる。

 1年ごとに社員の下位10%を解雇するか配置換えする――。そんなとても厳しい人事評価制度を採用していた米ゼネラル・エレクトリック(GE)。2016年、年1回の人事評価を廃止した。デジタル化のために、GEは人事制度まで作り変えてしまったのだ。

 従業員を業績に基づいて厳格にランク付けし、それに基づいて従業員の給料や階級を上げ下げし、パフォーマンスが期待に達しない従業員はバッサリ解雇する。日本人が思い描く「アメリカ企業の人事制度」は、おそらくこんな感じだろう。ところが近年、従業員の年次評価を廃止する「No Ratings」の企業が米国で増加しているのだ。

 米紙『Wall Street Journal』などの報道によれば、年次評価を廃止した企業としては、コンサルティング会社の米アクセンチュアや米デロイト、金融機関の米モルガン・スタンレー、IT企業では米マイクロソフトや米ネットフリックス、一般の事業会社としては宅配・航空貨物大手の米フェデックスなどがあるという。そしてGEも2016年に「No Ratings」企業の仲間入りをした。

写真●GEの人事部門のトップであるスーザン・ピータース氏
写真●GEの人事部門のトップであるスーザン・ピータース氏
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かつては厳格な人事評価をしていたGE

 過去のGEを知る人にとっては、この事実は驚きだろう。なぜなら1980~90年代にジャック・ウェルチ氏がCEO(最高経営責任者)を務めていた頃のGEは、非常に厳格な人事評価制度を採用していたことで知られていたからだ。

 かつてのGEは、ウェルチ時代に考案した「バイタリティー・カーブ(活性化曲線)」や「ナインブロック」という人事制度を採用していた。バイタリティー・カーブは、毎年あらゆる職場で管理職が部下を評価し、上位2割を指導力のある「A」、7割を中間層の「B」、残る1割(ボトム10%)を「C」に位置付け、C評価の人には会社を辞めてもらうか、別の部署に配置転換するという仕組みだ。ナインブロックはそれをさらに厳密にしたもので、社員を「パフォーマンス(成果)」と「バリュー(価値観)」という二つの軸で評価し、9パターンに分類していた。

 いずれにせよGEの社員は従来、常に他人との比較で評価されていた。「C」評価の社員は次の年にはいなくなるので、前の年に「A」や「B」をとっていた社員の中から、次の「C」評価が選ばれる。GEの中で生き残ろうと思ったら、常にほかの社員と激しく競争して、良い評価を取り続ける必要があった。

従業員に随時フィードバックする人事制度を導入

 GEはこのような評価制度を2016年までに廃止したのだ。年に1回の定期的な人事評価はやめ、「パフォーマンスデベロップメント」と呼ぶ新しい人事制度を導入した。上司は年に1回といった頻度で部下を評価するのではなく、部下が何か行動するたびに「継続(コンティニュー)せよ」「再考(コンシダー)せよ」といったフィードバックを送る。上司の仕事は部下の評価・分類から、部下の導き、コーチングへと変わったのだ。