昇給や昇格などは、普段のフィードバックの内容を吟味して決める。ただし、社員は自分が「どこのクラス」と評価されているのか伝えられなくなった。フィードバックにおいては、ほかの社員にどれだけ貢献したかという、チームワークが重視されるようになった。

 なぜGEは、人事評価制度を廃止したのか。GEの人事部門のトップであるスーザン・ピータース氏は、GEがデジタル変革を進める上で、「失敗を心地よいもの(コンフォート)だと感じる態度をGEの全従業員に根付かせる必要があった」からだと語る。

 デジタル変革と、従業員が失敗することの間にどんな関係があるのか。そこにはGEが2012年に全面導入した「リーンスタートアップ」が大きくかかわっている。

 リーンスタートアップでは、顧客を観察することによって得たアイデアを基に素早く「MVP(実用上最小限の製品)」と呼ばれるプロトタイプのような製品を作り、顧客にMVPを試してもらって「学び」を得るというサイクルを何度も繰り返すことで、より良い製品を作り出していく。「学び」が得られたのであれば失敗も尊重される。むしろ早く失敗することが大切だとされている。

 一方でそれまでのGEには「失敗を許さない」文化が行き渡っていた。GEが製造してきた発電所用のガスタービンやジェットエンジン、医療機器でトラブルが発生したら大変な影響が出るからだった。失敗を尊重するリーンスタートアップは、失敗を許さないGEのそれまでの文化とは水と油の関係にあったのだ。

失敗から学ぶために人事制度を修正

 GEがかつて採用していた厳格な人事評価制度も、失敗からの学びを尊重するリーンスタートアップとは相性が悪い。従業員が人事評価を気にするあまり失敗のリスクを恐れ、新しい取り組みやそれに不可欠な失敗を回避してしまうようになるからだ。GEが評価制度を廃止したのは、失敗を尊重する文化を根付かせるためだったのだ。

 「ジェフ(・イメルトCEO)は早い時点で、デジタル変革の実現にはGEの文化も変える必要があると気づいていた」。ピータース氏はそう語る。社内文化を変えるためには、人事制度を変えてしまうことも厭わない。それが現在のGEの姿なのだ。