日経BP社は2017年6月13日、書籍「GE 巨人の復活 シリコンバレー式『デジタル製造業』への挑戦」を上梓した。著者は中田 敦 日経BPシリコンバレー支局長。同書で中田支局長は、世界最大の重電メーカーである米ゼネラル・エレクトリック(GE)が成し遂げたデジタル化、シリコンバレー化改革の正体を解説している。本の出版を記念してシリコンバレーからお届けする、GEのデジタル改革を象徴するレポート第二弾は、シリコンバレー流を大胆に取り入れた組織改革を取りあげる。(編集部)

 製造業のデジタル化に挑戦する米ゼネラル・エレクトリック(GE)。同社はデジタル化を実現する手段として、リーンスタートアップやアジャイル開発、デザイン思考といった「シリコンバレー流」のイノベーション創出手法を忠実に実践する。スタートアップに生まれ変わろうという経営トップの強い意志が、そこにはある。

 GEのデジタル変革で興味深いのは、同社がシリコンバレーのスタートアップが実践する方法論を、ほぼそのまま導入していることだ。GEは2012年に「リーンスタートアップ」の提唱者であるエリック・リースとコンサルティング契約を結び、GE版のリーンスタートアップ手法として「FastWorks(ファストワークス)」を開発して全社員に学ばせている。

 2013年8月には米ピボタルソフトウエア(以下、ピボタル)に10%を出資し、ピボタルからアジャイル開発を学んでいる。コーチ役であるピボタルのソフトウエア開発者とGEの開発者が二人一組となって「ペアプログラミング」をすることで、アジャイル開発を伝授している。1台のPCにディスプレイとマウス、キーボードのセットを2組接続し、二人で一つの画面を共有し、一つのエディターや統合開発環境(IDE)を使ってプログラムを記述するのがペアプログラミングだ。

ソフト開発者とデザイナーの比率が「10対1」に

 シリコンバレーのソフトウエア開発拠点ではデザイナーを積極的にリクルーティングし、同拠点に設けた「デザインセンター」で、顧客と一緒にデザイン思考を実践している。かつてのGEのソフトウエア開発部隊にはデザイナーは存在しなかった。しかし2012年以降、シリコンバレーでデザイナーを積極的に採用した結果、2016年に独立組織となったデジタル事業部門「GEデジタル」では、10人のソフトウエア開発者につき、一人のデザイナーが存在するというほどデザイナーが増えた。

 シリコンバレー以外のソフトウエア会社では、ソフトウエア開発者とデザイナーの比率は「50対1」もあればよいと言われている。一方でシリコンバレーの有力ベンチャーキャピタルである米クライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズ(KPCB)が2015年に発表したテクノロジー業界におけるデザイン思考の現状をまとめたレポート「Design In Tech 2015」によれば、シリコンバレーのスタートアップのソフトウエア開発者とデザイナーの比率は「4対1」にも達するという。GEデジタルの10対1という比率は、シリコンバレーのスタートアップのそれにはまだ及ばないものの、シリコンバレーの外に比べれば十分に多い水準になっている。

 リーンスタートアップやアジャイル開発、デザイン思考などは、シリコンバレーのスタートアップが決まって実践する方法論だ。GEにアジャイル開発を伝授したピボタルのシニア・バイス・プレジデントであるエドワード・ヒエット氏は、これらがシリコンバレーの「ディシプリン(規律、決まり事)」なのだと解説する。

写真●米ピボタルソフトウエアのエドワード・ヒエット氏
写真●米ピボタルソフトウエアのエドワード・ヒエット氏
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 「シリコンバレーの外の人には知られていないが、シリコンバレーにはソフトウエア開発や製品開発に関するディシプリンが存在する。シリコンバレーのスタートアップで働く人々は皆、訓練によってディシプリンを身につけ、それを忠実に実践している。シリコンバレーのマインドセット(精神)は、外の人には『クレイジーに行こう』だと思われているが、実際には『ディシプリンを守ろう』なのだ」。ヒエット氏はそう語る。

 GEがシリコンバレー企業を見習うようになったのは、それまでのGEの屋台骨を支えていた金融事業が2008年のリーマンショックで大打撃を被り、本業である製造業の業績も不景気で落ち込んでいたころ、米グーグルや米フェイスブック、米アップルといったシリコンバレー企業が、不況をものともせずに成長を謳歌していたからだ。