「なぜ我々ではないのか(Why not us?)」。GEのジェフ・イメルトCEOは2016年11月に開催した自社イベントの基調講演で、同社のデジタル変革がイメルトCEOによるこのような「問いかけ」から始まったと説明する。

 「なぜ急成長を遂げているのがシリコンバレーの企業であって、我々ではないのか」「我々 もシリコンバレーの企業のようにやろう」――。イメルトCEOのそうした決意が、シリコンバレー流を徹底的にまねするという今のGEを作り出した。

他者に貪欲に学ぶのがGEの伝統

 実はGEのこのような他者に貪欲に学ぶ姿勢は、GEが昔から持っている特徴でもあった。1980年にGEのCEOに就任したジャック・ウェルチ氏が「脱・製造業」へと大きく舵を切ったのは、当時世界の製造業を席巻していた日本メーカーを脅威に感じ、製造業で日本メーカーと正面から対抗するのは不可能と考え、金融業や放送業といった日本メーカーが進出してきそうもない領域に活路を見いだそうとしたからだった。

 それと同時にウェルチ氏は日本メーカーの方法論に多くを学び、トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」や「リーン生産方式」、日本メーカーの生産方式を参考に米モトローラが編み出した「シックスシグマ」を全社的に導入した。

 1980年代は日本メーカーがGEにとっての最大の脅威だったが、今は「ソフトウエアが世界を食べる」という著名投資家マーク・アンドリーセン氏の言葉にあるように、シリコンバレー企業こそがGEにとっての脅威である。

 そうした脅威に直面した際に、ウェルチ時代のGEのように「シリコンバレー企業が攻めてこない領域」に活路を見いだすのではなく、自らをシリコンバレー化することによって新しい未来をつかもうとしているのが、イメルト時代のGEなのだ。

 「シリコンバレーは場所や働く人々が特別なのではなく、やっていることが特別なのだ。逆に言えばディシプリンさえ守れば、ほかの場所でもシリコンバレーのようなイノベーションは起こせる。GEはそう考えてディシプリンを忠実に守っている」。ピボタルのヒエット氏はそう分析する。

 シリコンバレー流を忠実に実践するというGEの現在のスタンスは、世界中で進行しつつある「ディスラプション」(デジタルによる産業破壊)に対して、設立125周年の老舗企業が出した回答なのだ。 この記事の目次へ戻る