チップとアプリで簡易にインフルエンザ検査

 続いて登壇したナノティスも、2016年6月に設立されたばかりの若いベンチャー企業。壇上に立った代表取締役 CEOの坂下理紗氏は、「ナノティスとは、ナノテクノロジーと健康に気づく“notice”をかけ合わせた造語」と社名の由来を説明した。

ナノティス代表取締役 CEOの坂下氏
ナノティス代表取締役 CEOの坂下氏
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 同社が提供するのは、「どこでも誰でも迅速健診」をモットーにしたインフルエンザ検査キットである。DNA検査や生体物質分析などに用いられるマイクロ流路を集積した使い捨てチップと、検査結果を可視化するスマートフォンアプリのセットとなる。

 毎年多くのインフルエンザ患者が発生するが、その多くは小児だという。しかし、検査結果が出るまでに待合室でウイルスに罹患するリスクも結構高く、坂下氏は「痛みと時間を伴うインフルエンザ検査の問題を解決したかった」と語る。加えて医療従事者も一定の時間を取られてしまうことから、その手間を軽減することも視野に入れている。チップとアプリによるソリューションは現在開発中だが、将来的には次のような利用方法を考えている。

 「パッケージを開け、チップを出してそれを舐める。スマートフォンのアプリでチップを撮影すると、1分以内に結果が表示される。QRコードを読み取るような感覚で、インフルエンザにかかっているかどうかがわかる。患者は痛みを伴わず、医師がカルテを書いている間に結果が出るため、これまでにないイノベーションがもたらされるはずだ」(坂下氏)。

ナノティスのインフルエンザ検査キットのイメージ
ナノティスのインフルエンザ検査キットのイメージ
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 チップのコア技術には自信を持っており、「弊社が独自に開発を進めているノウハウは低コストかつスピーディに量産できる可能性がある」(坂下氏)と強調する。共同研究のパートナーにはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)研究の第一人者である東京大学生産技術研究所の藤田博之研究室を迎えた。2016年8月31日に米国特許仮出願を完了済みだが、日本国内では規制の壁があり、どのように発展させていくかは未知数だ。だが日本でも個人が使えるようになった暁には、ドラッグストアやネット通販でチップを購入して、「絆創膏のような感覚で自宅に配備しておける」(坂下氏)とした。

 スマートフォンと連動することで、検査データをクラウドで運用できるのもポイントだ。このデータを活用し、世界地域別の流行予測や服薬量のモニタリングへも応用が利くとする。一方でインフルエンザ検査は入口に過ぎないという。「例えばジカ熱、デング熱などほかのウイルス性疾患、または、がんやバイオマーカーへの応用ができると考えている。理想としては個人が自宅で簡易にがん検診を行うことを可能にしたい」(坂下氏)。さらには農業や畜産業への展開なども想定する。その上で坂下氏は「ライフサイエンス、医学への全く新しいイノベーションを起こしていきたい」と力強く結んだ。