「デジタルヘルス・シンポジウム」と銘打ったイベントを、東京工業大学が2016年6月24日、同大学 大岡山キャンパスで開催した。「医薬×ICTのフロンティア」をテーマに、医療・医薬とICTの融合領域に携わる研究者や臨床医が講演。日米欧の製薬大手3社、ファイザーとバイエル薬品、武田薬品工業も登壇し、加速しつつある“製薬業界×デジタルヘルス”の取り組みを語った。

 イベントの協力企業でもあるファイザーからは、ワールドワイドR&D External R&D Innovation ジャパン 統括部長の瀬尾亨氏が登壇した。同社は近年、“Beyond the Pill”すなわち医薬品の提供にとどまらない事業の開拓に力を入れており、その観点から「デジタルヘルスに非常に興味を持っている」(同氏)。

瀬尾氏の講演の様子
瀬尾氏の講演の様子
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 ファイザーにおけるデジタル技術の活用はこれまで、マーケティング領域が中心だった。これに対し最近は、デジタル技術が「医療現場にどっぷり入り、個人レベル(のケアに役立ち)かつ使いやすいものになった」。そこで“薬の先”のケアに資する技術と位置付けるようになったという。

 デジタルヘルスの効用は大きく2つあると瀬尾氏は話す。1つは個別化(精密)医療の実現。もう1つは治験(臨床試験)の効率化だ。これらを通じ「適切な医療や薬を患者に届ける。これにより、病気を治すだけでなく、患者のQOL(quality of life)向上に貢献できる」。

 疾病の早期発見につながることも、同社が注目する点だ。従来は「自分は大丈夫、という主観的判断で病気を悪化させてしまうケースが多かった。デジタルヘルスを活用し早期に手を打てば、病気の進行を止めたり遅らせたりできる」。

 デジタルヘルスの世界市場が、2020年に1000億米ドル以上に育つとの市場予測も紹介。ビッグデータやウエアラブル関連で特に大きな成長が見込まれるとし、デジタルヘルスは「市場的にも大きな魅力がある」と話した。こうした期待から、製薬各社はいずれも「スタンスこそ違えど、この領域でどのようにビジネスを進めていくかを構想している」(瀬尾氏)。