「医療コンシェルジュ」の提案がありましたが、今、厚生労働省の社会保障審議会(福祉部会福祉人材確保専門委員会)の中では、新たなソーシャルワークの役割が議論されているところです(関連記事)。そこでは今後のソーシャルワークの機能として、分野横断的かつ包括的な相談支援体制を構築しようとの話が進んでいます。要するに医療領域だけでも、障害者領域だけでも、高齢者領域だけでもダメ。地域社会や人びとの暮らしに存在するニーズを、縦割りではなく幅広く拾い上げることが重要になってきているのです。

日本介護福祉士会の石本氏(写真:加藤 康、以下同)
日本介護福祉士会の石本氏(写真:加藤 康、以下同)
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 一方、現場からすると、要素がたくさんありすぎるため、重要度を整備してほしいのが本音です。地域の人たちに対して「ぜひ新しい仕組みを活用してください。こっちにはこんな機能があるし、あっちには最先端技術を使った機能があります」といった提示が多く、混乱して理解できていないと感じています。

 例えば地域包括ケアシステムでは、自助・互助・共助・公助がうたわれています。しかしこれまでは共助・公助に支えられるのが普通で、それを「財源が不足してきたから自分たちでケアしなさい」と切り離されても、国民感情としては「はいそうですか」とすぐには受け入れられません。自助・互助のうまみが何なのか、それが見えてこないことには納得できないでしょう。

 誰しもが住み慣れた地域で最期を迎えるのが幸せと定義していますが、果たして対象となる全員にアンケートを取ったのでしょうか。中には私は施設がいい、病院が安心という人だっているはずです。どうしても自助・互助の切り口だけで押されている感が否めません。

 これらの制度は当然ながら国民がターゲットであり、生活者にとって便利なものにならなくてはいけません。その際、制度上に点在しているコーディネーターなど様々な関係者を含め、コンシェルジュ的な発想をうまくリンクさせて、わかりやすい概念として広げていくことが大事になるでしょう。

 私は熊本県在住で、昨年の熊本地震では避難所を訪問して被災者の支援を行いました。その中で痛感したのは、被災者が求めているのは決して医療・介護のニーズだけではないということです。次の住居をどうやって見つけるのか、もともとあった住宅ローンをどうするか――。こうした暮らしの根幹に関わる問題が山積しています。

 これから先、共生社会を構築する流れの中では、その根幹まで踏み込んで人びとの暮らしを支える視点が必要になってきます。つまり、どこかで切り分けて支えるのではなく、オールマイティに支える仕組みです。

 ただし、生活の質は数値で測ることができないのが難しいところです。社会保障や介護で数値化する場合はADL(日常生活動作)や要介護度で推し量るわけですが、生活の質はそうはいきません。単純に経済的に裕福といった基準ではなく、新たな切り口の評価基準が求められているのではないでしょうか。