「医療コンシェルジュ」の提案がありましたが、福岡市では社会福祉協議会や地域包括支援センター、民生委員、校区担当保健師、校区担当係長など、まさにコンシェルジュともいえる機能がいろんな場所に存在しています(関連記事)。しかし縦割りのため上手く連携が図れていません。そこにツールとしてITを活用できれば効果的です。

福岡市の中村氏(写真:加藤 康、以下同)
福岡市の中村氏(写真:加藤 康、以下同)
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 ただし、ITはあくまでも黒子です。IT至上主義では失敗を招きます。効率的な方法の裏側に、知らぬ間にITが使われていることが大事なのです。例えば、ITツールを用いた見守りの実証実験を検討していた際、地域の方に「人的なネットワークがないところにいきなりITを導入しても、自分たちの見守りの代替にはならない」と言われました。人的負担を軽減する力としてITは役立つが、万能薬のように考えてもらっては困るというわけです。

 もう1つ、ITリテラシーの問題もあります。さきほどの見守り実証実験の例では、高齢者にスマートフォンを渡して、1日1回安否確認を行うことを狙いとしました。操作も極力簡単にしたのですが、実際にスマホを使った人たちは1割もいませんでした。結局、あわせて用意していたブザー型の緊急通報装置を9割以上の人が使ったのです。地域の高齢者の今のリテラシーでは、なかなかスマホを使いこなすのは難しいことを痛感しました。今後は関係者も含め、市民のITリテラシーをいかに高めていくかが鍵を握ります。

「福岡ヘルスラボ」を立ち上げる

 福岡市では今年度から「福岡ヘルスラボ」を立ち上げる予定です。ヘルスラボでは民間の様々なサービスを福岡市の実証フィールドに提供してもらい、どれぐらい市民の健康寿命延伸につながったかを客観的に評価する仕組みを構築しようとしています。

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 その際、明確な標準モデルの基準がないと、どれだけ向上したかを測定することができません。しかし、標準モデルの作成は非常に難しいものです。かつて、認知症予防の実証実験の際は基準を明確化できなかったために比較が上手く行きませんでした。現在、大学の先生を交えて基準を検討しています。

 行政はどうしても単年度主義になってしまうため、特に健康や医療の分野で成果があったかどうかを測るのは難しい面があります。せめて複数年度で評価する仕組みを作り、トータルのライフコストとして市にメリットがあるのならば、中長期的な資金の投入も検討すべきではないでしょうか。こうした手段でヘルスケアに対する費用対効果を定量化できればと思います。

 ヘルスケアの価値を高めて見える化できれば、いろんなプレーヤーが負担に対する納得感を得られるはずなのです。そのために我々はまず、地域包括ケア情報プラットフォームをオープンデータ化して、企業の皆さんに使ってもらおうとしています。

 その後には、収集したデータを個人の体質や病歴などに応じてパーソナライズ化していくことによって価値を高めていく。そうすれば、そこにお金を払ってもいいと思ってくれる市民がいるかもしれません。そして医療・介護を統合して健康サービスをパッケージ化して提供できるようになれば、さらに価値が向上するのではないでしょうか。

 “なくてはならないもの”ができることが理想ですが、それが突然出てくることは決してありません。日々の改善、目の前の困りごとに少しずつ改善を加えた結果がイノベーションにつながると考えています(談)。

■変更履歴
記事初出時、中村氏の肩書に間違いがありました。また「地域情報プラットフォーム」とあったのは「地域包括ケア情報プラットフォーム」でした。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。