多職種連携のハブになる存在として「医療コンシェルジュ」を置くという提案が出ましたが、実は東京都では4年ほど前から、同じようなコンセプトの取り組みを行ってきました。都民の生活をサポートする窓口として、すべての市区町村に「支援室」を置くというものです。退院して自宅に戻った後など、生活が崩れやすい時期や、何か困ったことが起きた時にSOSを出せる相手。そんな存在として、専門の研修を受けた数人を支援室に配置することが求められました。

日本訪問看護財団立あすか山訪問看護ステーション 統括所長の平原優美氏(写真:加藤康、以下同)
日本訪問看護財団立あすか山訪問看護ステーション 統括所長の平原優美氏(写真:加藤康、以下同)
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 我々の訪問看護ステーションがある北区でも、区医師会の委託を受けて支援室を設けました。訪問看護などの専門知識を持つ人材を置き、電話相談などに応えられるようにしたのです。こなした相談件数に応じて、区が担当者に対価を払うという形で運営してきました。

 支援室の担当者は、その地域に関して“看板には載っていない情報”を持っています。例えば、「この医師はこういう領域に長けている」といった情報ですね。そうした情報を提供することで、生活上の困りごとの解決を支援するのです。

 医療コンシェルジュは人なのか、Bot(人工知能)でもよいのか。先ほどこんな問いかけがありましたが、地域に根差した情報の提供や、患者とその家族の価値観や経済状況を踏まえたアドバイスといった、複雑なアセスメントには人の力が必要だと私は考えます。簡単で単純なアセスメントにはBotでも対応できるでしょうが、より複雑な情報をひもとくのは専門職の役割でしょう。

専門職は“固い頭”になりがち

 これは私の“妄想”かもしれませんが、何らかの特区をつくってそこで動かせる事業モデルがあるとするなら、「学習塾」のようなクリニックや訪問看護施設をつくれないかと思っています。学習塾は子供の能力を伸ばし、進学を支援することでその対価をもらう。この事業モデルをクリニックや訪問看護施設にも当てはめられないかと思うのです。

 具体的には、患者の要介護度を4から3に下げることができた施設には、その分で浮いたコストが対価として支払われる。そんなモデルをつくれないでしょうか。医療や介護を受ける側の願いは、できるだけ健康な状態に近づくこと。それを支援した成果にインセンティブを設けることで、クリニックや訪問看護施設もいろいろな工夫をこらすと思います。

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 それからもう一つ、多職種連携版の「クックパッド」のようなツールがあるといい。服薬や排泄の支援、患者が眠れない時の対処などについて、その場に専門職がいなくても、画面を見てそのやり方を学べるようなツールです。その画面の下に、その地域の商店の広告を出してもらうといった事業モデルが考えられると思います。

 何かイノベーションを起こそうという時には、発想の転換がとても大切だと感じます。特に、専門的な立場にいる人間ほど固い頭になりやすい。専門職の知識をもっとオープンなものにすることで、イノベーションを促していく。そんな仕組みが必要ではないでしょうか。(談)