48V対応エコシステム確立の恩恵は大きい

――48Vを自由に降圧できるようになれば、その恩恵を享受する応用は思いのほか多いと思われます。

 その通りです。実は古くから、電話機の電力供給、携帯電話の基地局など通信機器やフォークリフトを動かすモーターの動力源などに、48Vシステムが使われています。クルマのシステム電源向けを起爆剤として48Vシステムを活用するための半導体や電子部品が揃い、データセンターのようなクルマとは別の応用が広がれば、その恩恵はさらに広がるでしょう。

 12Vシステム向けの30V耐圧のMOSFETは製品が豊富で、大量生産されているため安価に入手できます。しかし、48Vシステム向けの80V耐圧品や100V耐圧品は応用が限定されていたため、対応製品の選択肢も少なく、比較的高価でした。欧州の自動車業界による48V車の投入の本格化は、こうした状況を打破する、波及分野が多い動きになると期待しています。

 48Vシステムをより効果的に利用するには、部品開発が重要になると考えています。スイッチング電源の小型化、高効率化のためには、AMラジオ帯を超える2MHz以上のスイッチング周波数で動作する電源技術が求められます。そうした高い周波数での動作に対応するため、GaNデバイスなどの新しいパワー半導体スイッチの性能向上、2MHz帯で使用できる磁性部品、高密度実装技術、放熱技術の開発が欠かせません。

 48Vの直流電圧を扱うエコシステムが出来上がれば、USB-PDで給電し、そこから20Vや12Vへと簡単に変換できます。そうなれば、ACアダプターなしで、電子機器を利用できるようになるでしょう。

――48Vシステムは産業機器やロボットなど、電気で駆動する機械の進化に大きな影響を及ぼす関連がありそうです。日本には、48Vシステムのユーザー企業と半導体や電子部品を供給するサプライヤーも多いと思われます。本来ならば、標準化をリードしたいところですね。

 48Vシステムの普及と応用拡大に関しては、実用化の入り口はクルマになると思われますが、標準化の戦略はさらに大きな視野を見て描く必要があるでしょう。私は、日本発の42Vシステムと48V家庭内直流給電について、「統合した規格として考えてはどうでしょうか?」と講演会などで問いかけをしてきました。しかし、残念ながら、どちらの技術も広がりを見せることがないまま、海外発の48VシステムやUSB-PDが広がり始めています。

 技術では先駆的な仕事があるのですが、規格を世界に広げる取り組みになると、日本は残念ながらうまくいかないのが残念なところです。ここに、もう一度挑みたいものですね。