本記事は、電子情報通信学会発行の機関誌『電子情報通信学会誌』Vol.99 No.11に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには電子情報通信学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(電子情報通信学会の「入会のページ」へのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(電子情報通信学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『電子情報通信学会誌』の最新号はこちら(最新号目次へのリンク)。電子情報通信学会の検索システムはこちら(「I-Scover」へのリンク)。

1.はじめに

 光集積回路(PIC)技術を用いて複数の送信・受光素子及び光フィルタを1チップに集積することにより、レンズやアイソレータの数とファイバアセンブリ回数を削減することができる。したがって、PICの大規模化は光送受信素子の大幅な低コスト化を実現する技術として期待されている。Siフォトニクス技術はSi-LSI作製技術を用いて光デバイスを作製することから大規模PICのプラットホームとして期待されており、光パッシブ回路、マッハツェンダ光変調器、更にゲルマニウム受光素子などがSOI(Silicon on Insulator)基板(用語)を用いて作製されている。しかしながら、レーザ集積に関しては化合物半導体の異種材料集積が必要で長年の課題である。

用語解説:SOI基板 Silicon on Insulator(SOI)基板。酸化膜上に薄膜のシリコン層を形成した構造の基板。

 Siフォトニクス技術を用いて半導体レーザを作製する場合、化合物半導体層は3μm以上の厚さになっており基板に垂直方向に電流を流している。そしてSOI基板に形成した導波路と積層することによりレーザ共振器を形成する(1)。Si 導波路の損失が低いという特長を生かして、高出力光強度が要求されるSi変調器へのバイアス用光源や狭線幅レーザなどテレコム領域での適用を目指して開発が進められている(1),(2)

 一方、Siフォトニクス技術を用いた光デバイスは、近年トラヒックの増加が顕著なデータセンター内のラック間、ラック内、更にはボード内の光リンクにも適用が期待されている。従来、データセンター内光リンクでは低消費エネルギーかつ低コストな面発光レーザが用いられているが、トラヒックの増加により将来的には波長多重技術の利用も必要となる。そのため波長制御性に優位なDFB(Distributed Feed back)レーザ(用語)の低消費エネルギー化が望まれる。このような要求を満たすレーザとして薄膜レーザが提案された(3),(4)

用語解説:DFB レーザ Distributed Feedback(DFB)レーザ。レーザ活性層付近に回折格子を設けた構造を持つ。回折格子の周期に応じて単一モード発振する。

 本稿では、Si基板上薄膜レーザの最近の進展について述べる。薄膜レーザは埋込形ヘテロ構造(BH)を用いて活性層への大きな光閉込めを得ることで高い変調効率を持つ。作製された素子において面発光レーザと同等の消費エネルギーで直接変調動作可能であることを述べる。一方、BHが必要なため化合物半導体層のエッチングと埋込再成長が必要となりSiフォトニクス技術との融合が大きな課題になる。この問題を解決可能な新たな化合物半導体とSiフォトニクス技術の集積方法についても述べる。