本記事は、電子情報通信学会発行の機関誌『電子情報通信学会誌』Vol.99 No.9に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには電子情報通信学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(電子情報通信学会の「入会のページ」へのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(電子情報通信学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『電子情報通信学会誌』の最新号はこちら(最新号目次へのリンク)。電子情報通信学会の検索システムはこちら(「I-Scover」へのリンク)。

アナログ集積回路設計の現状

 ディジタル回路において、自動設計技術の発達により数億トランジスタ規模のLSIが容易に設計可能である。今後もますます設計効率性は向上していくと思われる。一方で、実世界の情報はアナログ値であり、LSIの内外をつなぐインタフェースとして、アナログ回路技術が重要となっている。例えば機器間をつなぐ配線等においても、高速なものでは、波形のひずみなどを考慮したアナログ信号として扱う必要がある。総じて、音声や画像、圧力、温度などの様々なセンシング情報や、無線通信・有線通信における伝送情報をインタフェースするアナログ回路技術は、集積化が進むLSI技術において、その付加価値を決める大きな要因となっている。

 アナログ回路技術の重点化は2000年以降の回路設計技術の大きな潮流であり、実際に、回路設計に関する主要な国際会議においても、研究の主流はアナログ系の技術へシフトしている。日本人はディジタル化という言葉が好きであるが、実際にはアナログ技術の包括が回路技術のトレンドである。このような新世代のアナログ回路技術は、Mixed-signal回路(アナログ・ディジタル混載回路)やDigitally-assistedアナログ回路(ディジタルアシストアナログ回路)と呼ばれるように、純粋なアナログ回路のみで構成されているわけではなく、むしろトランジスタの数だけで言えば、ディジタル回路部分の方が多いぐらいである。もちろん、論理演算だけではアナログ信号を処理することはできず、いかに両者の利点を組み合わせてアナログ信号を処理するかというのが技術的な鍵となる。

 アナログ回路とディジタル回路を、設計方法の違いの観点から概説を試みる。図1に簡略化したディジタル回路設計フローを示す。回路の仕様を決め、VHDLやVerilog等のハードウェア記述言語により回路を記述する。RTL(Register Transfer Level)と呼ばれるレジスタ間の演算や結線で回路を記述することで、論理ゲートレベルの回路を自動的に合成することができる(論理合成)。また、実際の製造工程で利用するフォトマスクとなるレイアウト図も、この論理ゲートレベルの回路から自動的に合成することができる(配置配線)。この際、目標とする動作周波数や消費電力、レイアウト面積等を考慮して、最適な回路が自動生成される。実際の設計はこのように単純ではないが、大部分が自動化可能な抽象度の高い設計が可能となっている。

図1 ディジタル回路の設計フロー
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図1 ディジタル回路の設計フロー
動作速度、消費電力、レイアウト面積等を考慮して、回路を自動的に合成できる。