本記事は、電子情報通信学会発行の機関誌『電子情報通信学会誌』Vol.100 No.7 pp.621-627に掲載された「企業からのイノベーションへの挑戦」の抜粋です。全文を閲覧するには電子情報通信学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(電子情報通信学会の「入会のページ」へのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(電子情報通信学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『電子情報通信学会誌』の最新号はこちら(最新号目次へのリンク)。電子情報通信学会の検索システムはこちら(「I-Scover」へのリンク)。

1.イノベーションを実現するプロセス

 シリコンバレーのように画期的なイノベーションを量産したい。しかし、なかなかうまく行かない。リソースと技術を豊富に持つはずの大学や大企業でも、市場予測の困難性、起業に適した人材の不足、企業ならではの責任所在や人事・知財取扱いなどの課題があり、「技術的には可能」を越えて新しいエコシステムを作るのは困難だ。

 そんな困難を乗り越えようと、様々な取組みが行われている。当社でも、競技団体や医療機関と連携し、AI等の新技術を、スポーツやヘルスケア等の新領域へ適用する取組みがある(1)。また、国や自治体でも、新しい産官学の連携を進めるためのファンドやプログラムが創設され、イノベータを支援している。

 組織的な取組みの一方で、破壊的に斬新なアイデアは組織内では生まれづらいとも言う(2)。そのため、イノベーションを起こすには、組織的な活動と並行して、個人的な活動を育てることも重要である。模式的に表すと、例えば、次のような3段階を進める必要がある(図1)(3)

図1 イノベーションを実現するプロセスのモデル
図1 イノベーションを実現するプロセスのモデル
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 第1段階:「個人活動」
 自分の思い付いたアイデアを自分で温める。
 第2段階:「チーム活動」
 アイデアの協力者を募り事業企画や技術試作を行う。
 第3段階:「プロジェクト活動」
 投資家や会社に説明し、予算と体制を組んで活動する。

 一見、当たり前のように見えるこの3段階であるが、日本の多くの企業ではこのプロセスの実行が苦手である。特に、第2段階で期待されるような、既存組織を越えて自律的にチームを作って活動する文化は根付いておらず、プロジェクトの創出に至っていない。そこで、筆者らは、具体的なプロセスを設計してチーム作りを先導することで、自主的なチームの量産及び新プロジェクトの創出ができるかを検証した。次章からは、まず、具体的な事例でプロセスを紹介し(2.)、次に、特に重要なポイントについて解説する(3.)。最後に、プロセスの推進を通して発見された課題とその解決に向けた取組みについて紹介する(4.)。筆者らはこれを主業務ではなく、業務の合間の有志活動として行った。つまり誰でも実行可能である。筆者と読者の組織は違えど、共通する点も多いと思うので参考にして頂きたい。