本記事は、電子情報通信学会発行の機関誌『電子情報通信学会誌』Vol.100 No.6 pp.474-478に掲載された「未来の音の収録・再生・編集技術の実現に向けて」の抜粋です。本記事はオープンアクセスとなっておりますが、通常記事の全文を閲覧するには電子情報通信学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(電子情報通信学会の「入会のページ」へのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(電子情報通信学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『電子情報通信学会誌』の最新号はこちら(最新号目次へのリンク)。電子情報通信学会の検索システムはこちら(「I-Scover」へのリンク)。

1.はじめに

 人間は周囲で起こるあらゆる物理現象を、様々な感覚器を用いて知覚する。周囲の環境は膨大な情報量を持っているにもかかわらず、我々は認識過程を通じて必要な要素を抽出して処理することができる。例えば聴覚においては、雑踏の中でも着目した音声を聞き取ることができる現象(カクテルパーティ効果)がよく知られている(1)。しかしながら、このように意識的に認識する情報以外の「無意識」の情報も、やはり我々に重要な影響を与えている(2)。再び聴覚を例に出せば、音源までの距離の推定は、音の強度だけでなく残響なども手掛かりとして、無意識的に行われる(3)。視覚障害者が障害物を検知するために、聴覚を利用しているという研究報告もある(4)。いわゆる「臨場感」や「雰囲気」を作り出す要素も、このような普段は余り意識しない情報の中に含まれていることは疑いないであろう。

 筆者はこれまでに、高い臨場感を持つ音響システムの実現に向けた音響信号処理技術の研究を行ってきた。本稿では、「音」に焦点を当て、未来の音の収録・再生・編集技術に関して、筆者のこれまでの研究についても触れながら、私見を述べたいと思う。