本記事は、電子情報通信学会発行の機関誌『電子情報通信学会誌』Vol.99 No.6に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには電子情報通信学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(電子情報通信学会の「入会のページ」へのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(電子情報通信学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『電子情報通信学会誌』の最新号はこちら(最新号目次へのリンク)。電子情報通信学会の検索システムはこちら(「I-Scover」へのリンク)。

1.開発の背景

 我が国の農業は基幹産業であるものの、高齢化や農業人口急減などの影響を受けた内的問題と、TPPなどの外的問題の影響を受け、他産業とは異なる次元で生産現場の社会構造が大きく変化する過渡期にある。生産現場における恒常的な問題としては肥料価格の高騰が挙げられる。我が国における肥料の自給率はほぼゼロに等しく、肥料産出国の輸出制限や社会情勢の変化に伴い原料高騰が続いており、肥料価格が過去数年で倍増している状況である。経営面積が50ha以上の大規模生産者が増える中で、年間1,000万円超の肥料代を支出している法人は少なくなく、肥料の効率的な利用が喫緊の課題である。

 水田は均一な状態に見えるが実際はトラクタ等の農業機械による旋回などに起因して図1のように作土深のばらつきが存在し、また堆肥等の散布むらにより土壌の肥沃度にもばらつきが生じていることが知られている。これらのばらつきは結果的に図2のように収穫時期において稲が倒れる現象を引き起こし、コンバインによる適期作業を阻害する要因となっているが根本的な解決策は現状見つかっていない。我が国の水稲栽培において適正施肥栽培技術とその利活用は重要性が従前から提唱されており、精密農業に代表されるような局所施肥技術の開発が進んでいる。欧米では精密農業の技術に一部普及が見られるものの、営農面積が小さい日本では技術導入に対するコストパフォーマンスを生み出すことが困難で積極的な技術普及は進んでいない現状であった。筆者らは、日本型精密農業を普及させるための新たな切り口として、圃場情報を蓄積することの重要性を説き、「篤農技術をオペレータへ」と「肥培管理のさじ加減を生産現場へ」という二つのキーワードを掲げてスマート田植え機の技術開発に取り組んだ。

作土深(Topsoil Depth)=作土深は土壌表面から10~20cmに存在する土層の厚さを指し、耕うんや施肥などにより直接的に作物生産に与える影響が大きい土壌の範囲である。単位はcm。
土壌肥沃度(Soil Fertility Value)=土壌肥沃度は作土層中に溶存し稲が吸収できる状態にあるイオン成分の総量を表す。今回開発したシステムでは、田植え時における前輪の車輪間の電気抵抗値で示される。単位はmS/cm。
図1 作土深のばらつき及び土壌中に溶出したイオンの様子
図1 作土深のばらつき及び土壌中に溶出したイオンの様子
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図2 収穫前に倒伏した水稲
図2 収穫前に倒伏した水稲
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